Night Doctor ナイト・ドクター【7】 (ページ10)

今日:11 hit、昨日:13 hit、合計:36,961 hit

どん底ページ10

.

side 朝倉

勤務時間外、勤務時間内でも手が空けばすぐに私たちはAの治療法について調べた。

でもどれだけ医学書を買い漁っても、どれだけ参考書を読み漁っても書いていることは同じ

‶標準的な化学療法は未だ確立されていない″

この言葉がまた私たちをどん底へと陥れる。

side A

抗がん剤の薬を増やしたことで、今までより明らかに身体に変化が起こっていた。

『おえっ...ゲホゲホ...はぁ...』

鏡に映る自分はドンドン窶(やつ)れて醜い姿になっていく

それでも頑張ろうと思えるのは日勤医師や同期が懸命に働く姿を間近で見ることが出来ているから。

...嫌いな日勤医師でも私の励みになる日が来るなんて

その後痛み止めを飲んでも効かない副作用が何度も私を襲った。

side 朝倉

抗がん剤の量を増やしてもあまり効果が診られない、ということで抗がん剤増量をAに提案しにいくことになった。

私一人では上手く伝えられる自信がなくて先輩にもついて来てもらった

また一緒に頑張ろう、そう言うつもりだったのにAから返って来たのは私たちの思った返事ではなかった。

『美月さん、暁人さん...色々ありがとうございました』

「え...？」

なんで...過去形...？

『治療はもういいです』

「A...？何言ってるの...？」

『抗がん剤の治療は効果が出ないまま、出るのは副作用だけ...正直言うともう辛いんです

がん患者には手術、それが不可能なら抗がん剤治療って当たり前のように提案してきました。

でも実際自分がやってみると生易しいものではありませんでした...

先の見えない治療がこんなにも辛く苦しいものだったなんて...

吐き気、頭痛、目眩...もう生きてることが辛いんです

治る可能性もないのにいつまでこの苦しさに耐えればいいんですか...？』

この時私は初めて知った

いつも明るく振る舞っているAも、もうすでに限界を迎えていた。

『怖いんです。情けないですよね...散々偉そうなこと言っておいてこの様ですよ

...緩和ケアのみに切り替えてもらえませんかね？』

Aは力なく笑った

「そんな...」

初めて見る弱気なAの姿に私は何も言葉をかけてあげられなかった。