慈愛に満ちたおかあさま (ページ7)

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母の呼び名と人間の兄弟ページ7

｢泣きやみましたか？国永。｣
｢ぅ、ああ。すまないな、年甲斐もなく泣いてしまって…。｣

赤くなった目元を親指で優しくさすりながら、愛は愛おしそうに微笑む。

｢いいえ、良いのですよ。いくつになっても、貴方は私の息子で、私は貴方の母ですもの。母の前で、泣きたいのを我慢などしなくて良いのです。｣

優しい声に、鶴丸は止まったはずの涙がまた零れてしまいそうだった。

どれ程昔のことであったとしても、忘れることのできなかった母との優しい思い出。

その思い出の中と寸分違(たが)わず優しい手、笑顔、声。

それら全てが、傷ついた鶴丸の心を癒していく。

｢ああ、そうだ、これから何と呼べばいいんだ？たあさま、は幼い子どもが呼ぶんだったな。もう俺は幼くないからなぁ。｣
｢ふふ、そうですね。あの頃とは比べ物にならないくらい成長しましたものね。｣

硬く、肉刺(まめ)のできた鶴丸の手をとり、愛は目を伏せ口元に笑みをのせる。

子どもの成長を喜ぶ、母の顔。

｢呼び名はなんでもいいですが、そうですね…。｣

愛が考えようとした時、襖がすっと開けられた。

｢母さーん、片付けおわっ、た……、？｣

愛を呼びに来た少年は、知らない青年がいるのを見て言葉を途切れさせた。

｢あら、早いですね。では小さな子達を外で遊ばせてやってくれますか？椿樹(つばき)。｣
｢ああ、うん分かった。ところでそこのお兄さんは？新しい兄弟？｣

軽く首を傾けて聞く椿樹に、愛は嬉しそうに目を細めた。

｢私の、一番最初の子どもです。｣
｢そうなんだ！じゃあ、神様かなんかなんだね。｣

納得したように頷いて言った椿樹の言葉に、鶴丸は目を見開き驚いた。

｢ねぇ母さん、お兄さんの名前は？｣
｢ふふ、今度この子自身から聞くと良いですよ。｣
｢そうだね、そうするよ。じゃあゆっくりしていってね、兄さん。｣

愛に良く似た笑顔で手を振る椿樹がいた場所を、姿がなくなった後も、鶴丸はしばらく見つめていた。

｢……かあ、さん。｣
｢はい、国永。｣
｢あの子どもは、俺を兄と…。｣
｢はい、呼びましたね。｣
｢あの子どもは、俺の弟、なのか？｣

静かな、しかし微かに震える声に、愛は落ち着かせるような優しい声で応えた。

｢はい、貴方の弟ですよ、国永。｣
｢俺は、あの子どもの、家族なのか、母さん…。｣
｢はい、私やあの子、そしてたくさんの妹、弟達の家族ですよ。｣

黄金の瞳から、ぽろりと一粒、雫が落ちた。