慈愛に満ちたおかあさま (ページ3)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:3,902 hit

母と手入れページ3

少し心苦しく思いながらも、三本の刀を自室に置き、屋敷に住まう子ども達と昼食を摂りにいった愛は、いつもより早めに食べ終わると、年長の子に任せ、急ぎ足で自室へ戻ってきた。

｢…まずは、国永から、ですね。｣

畳に並べられた刀のうち、鶴丸国永を鞘から引き抜き、愛は箪笥から出しておいた手入れ道具を手にし、丁寧に、丁寧に手入れをし出した。

まだ鶴丸国永が打たれ百余年程しか経っていなかった頃、付喪神として生まれて間もなく、小さな小さな神様だった頃のことを思い出しながら、ほんの少しの神力を流して刀身の美しさを蘇らせていく。

ほんの少し、とは言っても神格の高い愛にとっては、という意味であるので、みるみるうちに刀身は傷を減らし、数分で何もなかったかのように美しい輝きを取り戻していた。

｢ふぅ……、ふふっ昔と変わらない、美しい刀身ですね、国永…。少し、待っていてください…すぐ、あとの二振りも直しますからね…。｣

瞳を閉じ、柄に額を当てて言った愛は、次の刀と入れ替えるように鶴丸国永を畳に横たえ、艶やかな紫の鞘が美しい刀を手に取った。

じっ、と見つめること数秒、愛はぱちりと目を瞬かせた。

｢これは…国永と共に伊達正宗公の元にあった刀ですね…。名は大倶利伽羅廣光、でしたか？……こちらもまた、傷が酷い…。さぞかし美しい刀身だったでしょうに…。｣

すらりと鞘から引き抜いた刀身を優しく撫で、愛は鶴丸国永と同じように、神力を織り交ぜながら丁寧に手入れを施した。

磨かれる度に美しさを取り戻していく刀身に、愛は知らぬうちに口元にほんのりと笑みをのせていた。

傷や汚れがないことを確認し、カチン、と鞘に戻すと、黒漆の鞘に赤の下げ緒がよく映える打刀と持ち替える。

伊達正宗公の刀二振りと同じく、戦国の世で使われたその刀に、やはり愛は見覚えがあった。

丁寧に、しかし手早く手入れを終え、きらりと輝く刃を見つめ、愛はひとつ、息をついた。

｢山姥切国広…。備前長船長義の写しですね。たしか、写しを打ってほしいとの依頼で鍛刀された山姥切国広があまりにも美しかったため、本科である長義にも銘を入れさせたと聞きます。…はぁ、本当に美しい刀です…。｣

眩しいものを見るかのように目を細め、しばらく眺めた後、ゆっくりと鞘に刀身をしまった。

｢ふぅ、今日は少々疲れましたね…。国永、明日こそ、貴方の姿を見たいです……私の、可愛い子。｣

微笑むその横顔は、正しく母そのものだった。