浦島坂田船でただただ妄想を膨らませるやつ【短編集】 (ページ39)

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注射①【志麻】ページ39

インフルの注射の時期になった。
毎年すごく苦労する。

病院嫌い注射嫌い医者嫌いのAをどうやって病院につれていくか。
まだ注射に行くことは行ってないし肝心のAは横ですやすや寝てるし。

どうしようか…とりあえず起こすか…

「Aおきて？」

『んー…』

「お出かけ行こ」

ごめんなA
たしかにお出かけやけどちょっと嘘つく

『ぎゅ』

「起きない人にはぎゅーしませんー」

『おきる…』

「ん、えらい。ぎゅー」

めっちゃくちゃかわいい連れて行かなくていいんじゃないか。
いや、心を鬼にしろ自分。

とりあえず起こすことに成功した。
二人とも準備が終わり車に乗り込む。

『ねーねーどこいくの？』

「んー？秘密」

絶対今言うと帰るって言いかねない。

病院に近づいていくたびにAの顔が暗くなっていく。
『ねぇ…病院…』

「インフルの注射受けてないやろ」

『志麻くんだけ？』

「そんなわけないやろーほら、いこ」

『や』

あーやっぱりこうなるよなぁ
うる目になってるAが可愛すぎる。

『いかない、どうせかかんないもん』

「今までも受けてたからならんかったんやろーほらおいで」

『むり、やだ』

Aの目から涙が落ちてきた。

「泣かないのーよしよし…じゃーあ、車から降りれたら一個、病院入れたら一個、診察受けれたら一個、注射受けれたら二個、泣かずに全部できたら＋三個ご褒美あげよ」

『ご褒美？』

「そーご褒美、まだ内緒やけど、泣き止んだ？ほらおいで」

涙を拭ってあげて、手を差し出すと車から降りてきたA。
「んーいい子！」

その顔はめっちゃくちゃ暗いけど…w
病院にこのまま入ろうとすると案の定Aの足は止まる。
周りに人がいなくてよかった。

「大丈夫だよ怖いことないよおいで」

そういうとゆっくり足を踏み入れた。
本当に嫌いなんだな。
なんか悪いことをしている気分だ。

とりあえず受付もすんで待合室で待つことに。
ずっと手をつないでいるとわかる震え。

『こわい？』

頷くA。『ご褒美？』から一言も発していない。
かわいいなぁ…

看護師「〇〇さーん」

「はーい、いこっか」

うる目で首を振っているA。
かわいいけど行かないと。

「ご褒美なしかなぁ…じゃあ俺一人で行くで？ばいばい」
そういって手を離すと必死に手をつかんで首を振る。

とりあえずこのまま診察室に連れて行こう。