■幸せは夕陽色 ページ9
｢はいお疲れ様です。失礼しますー。｣
本来であれば今ごろAとご飯に行っている手筈だった。
しかし悲しいかな、防音室で1人リモート会議に勤しんでいるめいちゃんです。
前日詰めきれなかった打ち合わせや音源の編集、最近全く出来ていないツイキャス等の兼ね合いもあって予定がお釈迦になってしまった。
リスナーファーストであることを知っているAは笑って許してくれたけど、この体たらく愛想つかされちゃっても文句言えないよなあ〜…。
｢Aー…？｣
いそいそとPCの電源を落として、リビングでくつろいでいるはずのAへ声をかける。
返ってこない声と薄暗い部屋に思わず心臓が跳ねた。
｢どこいんのぉー？帰っちゃった…？｣
部屋の暗さにも目が慣れてきたころ、窓際にこんもりと盛り上がったタオルケットが落ちているのが分かる。
見ずとも検討のつく中身の正体に安堵しつつ、そちらへ歩みを進めた。
｢A、｣
ちゅんぺいととらちゃんと寄り添うようにして微睡むA。カーテンからこぼれ出る橙が1人と2匹の上に長く夕影を引いていた。
かたく閉じられた瞼の正面へ寝転がり、暫しの間寝顔を眺める。片手間に頬を撫でたり髪を弄んだりしてみるけど、起きる気配はまるで無い。
｢…ごめんね。｣
普通にお出かけできなくて。約束のひとつも守れなくて。活動者であることを悔いたことはない。けれどたまに、Aにはもっと幸せにしてくれる人がいるんじゃないかって、そう思うこともある。
｢いいよ。｣
来るはずがない返答に落ちかけていた意識を引き戻した。
すっかり目を覚ましたAの瞳は暮色を映して、縁取るまつげを静かに揺らす。
｢起きてた？｣
｢んー、どうだろ。｣
｢ねーえ。｣
下手くそにはぐらかしたAはクスクスと笑う。そうしてそのまま、狭いタオルケットへ招かれた。
｢お疲れさま。起きたら夜マック行こうね。｣
｢…ナゲット15ピース…。｣
｢許しましょう。｣
にゃあん、とひと鳴きしたちゅんぺいは短く欠伸をして、尻尾をパタパタさせながら頭上に寄り添っている。
ぬるい人肌に覚めたはずの眠気が押し寄せてきて、今度はそれに抵抗しないまま、ゆっくりと目を閉じた。
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作者名：哀 | 作成日時：2022年8月29日 23時
