□隣で雨宿り ページ13
糸のようにか細い雨が執拗に窓ガラスを洗っている。
薄いカーテン越しに見る曇天はひやりと冷たい。
「なあに見てんの。」
首を斜め後ろに動かすと、意外とすぐ近くにめいちゃんが立っていた。両手にマグカップを握って。
「すしちゃん達が外見てたから。」
「にゃんぴ〜!」
しっぽをぴんと立てながら彼の足元にまとわりつく猫たち。普段懐かないすしちゃんも今日はご機嫌らしく、わさびちゃんと一緒になって鳴いていた。
9月後半になってからというもの、なんとなく雨が増えたなあと思う。別によく外出するわけでもないし構わないんだけどね。雨の日のこういう部屋の雰囲気好きだし。
「Aチャン。」
「ふふ。なに?」
猫ちゃんに対するやけに高い声で話しかけられるものだからつい笑っちゃった。
2匹に飽きられたらしいめいちゃんは私の隣を陣取ってぐいぐいと遠慮なしに体重をかけてくる。若干の抵抗をものともしないパワーでとうとう、へにゃりと床へ2人して倒れ込んだ。
「もー、ほんとになに?」
「んふふふ。なんもないよ。」
「甘えたいの?」
「んーん?甘やかしたいかも。」
向かいあわせで寝転んだ彼はふわふわ楽しそうに笑う。
コーヒー豆の残り香をまとっためいちゃんはいつもより大人に見えた。
「ねーえ、こっち。」
伸ばされた二の腕に促されるまま頭を預けると、満足そうに鼻を鳴らす。
「腕、かたいよ。もういい?」
「酷くない?もうちょっと可愛いこと言ってくんなきゃヤダ。」
「顔近くて緊張する。」
「えぁ、かわい。キスしたい。」
こつんと額同士がぶつかって、体温が近付く。
まつ毛の本数が数えられるくらいの至近距離。私の顔にかかった横髪をはらって耳にかける動作がずいぶん様になっていた。
そうしてそのまま唇が触れ合う。一度のまばたきにも満たないほんの一瞬の時間。惜しむように離された顔を目で追うと、『えっち』と茶々が入ってくる。
「意地悪言った。」
「言ーってないよ、褒め言葉だから。」
「笑ってんじゃん!」
「違う違う、これはね、あの、あれ。ふ、」
「また笑った!」
堪えきれず笑い出すめいちゃん。非常にムカついたので鼻をつまんでやった。
「続きは?」
「なに、続きって。」
「Aからしてよ。」
「やだよ、ないよ。」
どうせできるわけないって思ってるんだろうな。
さして残念がる様子もない彼の隙をついて、今度は私からキスをした。
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作者名:哀 | 作成日時:2022年8月29日 23時