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まだ帰んなよ、と短い一言を残して店内へ消えたなるせは、ほどなくして灰皿の前へ帰ってくる。
「ん。」
「なに…わっ!」
顔面に触れるくらいの距離感で押し付けられたのはお酒…ではなく、甘めのカフェラテ。よくよく見れば、なるせの左手には同じシリーズのコーヒーが握られてある。
「それ飲んだら帰れよ。」
「ありがと…喫煙者ってカフェイン好きだよね。」
「お前マジ一言余計。」
カップからストローを剥がしとって、張った蓋に突き刺した。
行き交う交通を眺めながらストローに口をつける。白っぽいヘッドライトが眩しいけど、なんとなく目は離さなかった。
「ヤニはもういいの?」
「コラ!女の子がヤニとか言うんじゃありません!」
「いーって、だるいだるい。」
「は?は?舐めてんなあお前なあ!?」
肩をぐわんぐわん揺らして絡んでくんのほんとやめて?
カフェラテの御恩が霞むくらいめんど…面倒臭い。
「なに、私の親なの?」
「…なりたくないね、お前の親なんか。」
―ふと、なるせの声が震えているような気がして振り返る。ほんの一瞬泣きそうな顔に見えたけど、まばたきを終えたあとには変わりない、いつものおちゃらけた彼だった。
「なるせ今―」
「あ、来たな。」
「…来たなって、」
何が。
視線を追いかけた先には、親しげにこちらに手を振りながら駆け寄ってくる――橙色があった。
「めい、ちゃん、?」
謎センスが爆発してる個性的なハーフパンツと、いつものビーチサンダル。少し息を上げた茶髪の彼はつとめてやさしく私に笑いかける。
「おっせ。10秒で来い陸上部。」
「いやめっっちゃ急いだけどね!?」
依然としてしゃがみこんだままのなるせは何でもないような顔をしてスマホを指さす。画面にはめいちゃんとのトーク履歴が映っていて、未だに状況をのみ込めない私でもなんとなく経緯だけは理解した。
今更なにを言ったらいいのか分からなくて、自動ドアの開閉音だけが耳にこびりついて離れない。
「そういうことです。」
「…ごめんね?でも私1人でも、」
「それはだめ!」
そんなふうに言いきられちゃったら辞退できないじゃない。仕方なくめいちゃんの隣に並んだ。どうやら私が歩き出すまでその場を動かないつもりらしいことは、顔を見れば分かる。
「じゃあ、帰るね。」
「おーおー何処へでもいっちまえ。」
かくいうなるせといえば、最後まで憎まれ口を叩いて、それはそれは鬱陶しそうに手で追い払う仕草をしていた。
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哀(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» コメントとお祝いの言葉ありがとうございます!お褒めの言葉もとても嬉しいです…!番外編の方もがんばりますので、ぜひよろしくお願いします! (2022年8月27日 10時) (レス) id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!素敵なお話にドキドキワクワクしまくりました!ぜひまた🐏ちゃんの小説をお願いします!!!Twitterもこれからも楽しく拝見させていただきます!本当にお疲れ様でした!!! (2022年8月26日 19時) (レス) id: 3c19ec381c (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - 涼風さん» コメントありがとうございます!あれって地域差によるものだったんですね…笑これからも自分のペースで頑張ります! (2022年8月11日 18時) (レス) @page30 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
涼風(プロフ) - ゴミステーションでもしや住んでる地域一緒なのでは…!?と思ってしまいました笑笑内容もとても面白いので、これからも更新楽しみにしています!!!!無理なく頑張ってください😚♡ (2022年8月11日 0時) (レス) @page28 id: d41656e1e9 (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» コメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。更新も自分ペースでボチボチ頑張ります! (2022年8月7日 20時) (レス) @page23 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2022年7月23日 10時