【歌い手】FANCY:YOU!!【めいちゃん】

●センターライン〈番外〉Nrs. ページ26

｢なるせー、いんでしょ。｣

ゆらゆら、漕いでいた船は聞きなれた声でぱちんと消えた。

｢返事はー？｣
｢いませーん。｣
そこそこ高さのあるタラップを軽々と登ってきたのは悪友こと柊A。同クラの女に比べて長めのスカートをはためかせ、あくびをしながら左隣へ腰かける。

｢いま何限よ。｣
｢4。私昼で帰る。｣
｢はー？お前帰るなら俺も帰るわ。｣
｢なるせは出席ヤバいからだめでーす。｣

見せつけるみたいに大きくバッテンを作られてちょっとムカついた。分かってるっつーの。

変わった女だな、と思う。
自分が万人に好かれるような人間でないことは自覚してるし、そもそもこいつとはタイプが違う。
馬鹿みたいにお人好しで、馬鹿みたいにクソ真面目。正直Aとだけは分かり合えないだろうな、と初対面で感じたくらいだ。


｢お、飛行機雲だ。｣

ていねいに括られたポニーテールからはぐれた髪を鬱陶しそうにはらう。長いまつげに縁取られたまぶたは数回瞬きをしたあとこちらへ向けられた。

｢なーに。｣
｢や？うなじ最高だなって。｣
｢きーんも！｣

舌を突き出しておどけてみせるAは、あの入学式での優等生ぶりが幻に思えるくらいくそ生意気だった。


すっかり俺たちの定番サボりスポットと化した第二校舎の屋上。そこで何か話すこともあれば、何も話さないこともある。ただ隣に座ってなんとなく時が過ぎるのを待って、大抵は一緒に下校したり授業に戻る。

人生を無駄に浪費していると言われそうなこの時間を、存外俺は気に入っていた。


｢なるせは花火大会いくの？｣
｢いかね。てかまだ期末前だろ。｣
｢いーじゃん話すくらいは。いこーよ！ね？｣
｢絶対やだわ！｣

ぶうたれるAを横目に、よりいっそう断固拒否の意見を固いものにする。
暑くて人も多いところにわざわざ行くくらいなら部屋にこもってボーッとしてた方がなんぼかマシだわ。

｢えーつまんないの。｣
｢別に俺いらんだろ。友達と行きゃいーじゃん。｣
｢何言ってんの？｣

分かってないな、なるせは。そう顔に書いてある。


｢なるせ行かないなら行く意味ないし。｣

思わずしかけたあくびを噛み殺した。
当の本人はもう次の話題に移っていて、ひとつも変わらない顔色から本心なんだろうなということが伺える。


｢…意味わかんねーよ、ばーか。｣

何の気なしに放たれた一言にこんなにも動揺している。
自分のことだというのに、それだけはどうしても汲み取れなかった。

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