2-あのこじゃわからん ページ7
窓枠に腰掛けて、羽ばたく蝶と戯れるその姿は華奢で小さい。
幼さを残すその顔は、他国から“花喰い”と恐れられている兵器の面影はなかった。
｢Aさん｣
｢...！ショッピ｣
すっかり凝り固まった表情が華やぐ。
控えめな笑みだけでなく、マゼンタ色のふたつの宝石はひどく暖かい。
自分で言うのもなんだが、この国でこの少女にこんな表情をさせられるのは自分だけだ。
そうでないと困る。ずっと昔から、隣で彼女を閉じ込めていたのは他ならぬ俺だから。
うずく独占欲と支配欲を抑え込みながら、続きの言葉を発した。
｢久しぶりっす。元気してました？｣
｢うん、元気よ。予定より随分早かったね。｣
｢Aさんが寂しくないか心配で、早めに切り上げて来たんで。｣
｢そうなの？ありがと？｣
すっかり元の無表情に戻ってしまったが、瞳は柔らかなままだ。
Aさんの隣に座るように促されたが、そんな細い窓枠に座れるのはこの軍部じゃ彼女だけみたいなもので、遠慮して斜め前に立つだけに留める。
俺が近付いたからか蝶が散ってしまったが、別にいい。
いや、少し残念かもしれんな。
蝶に群がられていた先輩はたいへん可愛らしかったから。
｢...そういえば、次も単独行動なんすか？｣
｢そうだね。...あは。眉と眉のあいだ、ひどいね。｣
｢そりゃ...まぁ。｣
下手に隊列に組まれるより、この人は1人の方がいいとはわかっている。
けれど、心配なものは心配だ。
できるなら、ずっとずっと閉じ込めていたい。
誰の目にも触れないように、ここに。
｢はやく行きたいなぁ｣
先輩は、戦場に立つ自分に存在意義を見出している。
そんなことしなくても、上層部じゃなくて俺だったらもっと意義を見つけてやれるのに。
だけど結局、俺は全部愛しく思ってしまうから。
俺の前だけで多くなる口数とか、凪いだ戦線で見える楽しそうでも辛そうでもない表情とか。
それから、戦でしか自分を認めてあげられんとことか。
せやから、
｢そうすね。｣
と俺は、内に渦巻く劣情を見ないふりしながら返すのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 215人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
哀(プロフ) - 左原さん» 感想ありがとうございます！すごく嬉しいです...手汗がとまらない...これからも読んで頂けると幸いです！ (2018年6月2日 17時) (
レス) id: 037484ccd3 (このIDを非表示/違反報告)
左原(プロフ) - 文章も設定も凄く素敵で大好きです... (2018年6月2日 11時) (レス) id: 28700181e9 (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - 朝霧さん» わーい！お気に召したようで嬉しいです！コメントすごくありがたいです...頑張りますね！ (2018年5月25日 23時) (レス) id: 037484ccd3 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 - 待って、、、こーいうの好きなんやけど、、、ああ！申し遅れましたねェ、朝霧言いますー、ほんまこういうの好きですゥ！頑張ってください！ (2018年5月25日 12時) (レス) id: 3d4e8d6b36 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：哀 | 作成日時：2018年5月20日 19時
