Lost & Found【橙】

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ステージから少し離れ、端から見ていた。

あの曲。夏頃から二人で作っていた曲を歌うミカ先輩。
サイドギターは海斗。

想像通り、地獄みたいな光景だった。



反して流れる爽やかなポップスは、頭の中をすり抜けていく。

この英語の歌詞の意味を、とうとう聞けないままだったな。



あぁ、演奏が噛み合っていない。

彼女の歌い方からも、調子が良くないのが分かる。

あんなことがあった後だから。

海斗がミカ先輩と彼氏さんを仲直りさせたかったのは分かる。
でも、わざわざ今日を選ぶ必要なんてなかった。


どんなに技術が巧みでも、心が通わない演奏を聞くのは辛い。

少しのズレが生み出す、かすかな不協和音。
聞いていられなくて思わず顔をゆがめてしまう。

横のうみを見ると、同じように微妙な顔。


一方、周りの人は全く気にした様子もなく。

演奏が終わると、溢れんばかりの拍手と歓声。

先輩は感謝の言葉を口にしていて。

海斗に至っては、最前列の女の子に顔を寄せて何やら楽しそうに会話している。








ふっと暗転した。

再び、スポットライトがステージを照らした時。

そこにに居たのは、
たったひとり、海斗だけ。


先輩も他のバンドメンバーも見当たらなくて。

先ほど歓声をあげていた女性たちが、今度は目の色を変えて、うっとりとしたようなため息。

ファンがいるんだ既に。
…海斗のくせに。

そう思ったけれど、口には出せないぐらい。
今の海斗は申し分なくかっこいい。



『すみません。これからちょっと…あの。アコギ一本で弾き語りします』



普段は自信なさげな海斗。

今日、別人みたいな色気をにじませているのは、金色で重めにかかった前髪のせいか。

ステージに上る時だけ引く、アイラインのせいか。

それとも、
…好きな人のことを思い浮かべているせいか。


『僕の片思いの相手が書いた歌なんですけど…その子も片思いしてて。だから凄く共感しちゃって…その。はい』


純粋な心を持った海斗だから。
キザな言葉でさえも、真っすぐに届けてしまう。

それにね。ステージ上なら、そんな姿を鼻で笑うような人なんて視界に入らない。

だから、私は。
あなたがステージ上で生きる人だって、いつも思うんだよ。


緊張しているのか数回瞬きをしてから、客席にキョロキョロと視線を彷徨わせる。

ぐっと眉に力を入れてから、口を開いた。



『その子のことを想いながら歌います、聞いてください。"幸せ"』

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