Lost & Found【橙】

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穏やかな午後。

こんな時間が続くと、たまに考えてしまうことがある。
もしかすると今が人生で一番楽しいのかもしれないと。

すぐ近くに海斗がいて、友人たちと、自由に使える時間。

この危ういバランスで保たれている日常を崩すのは、私自身なのか、環境なのか。

漠然とした不安に襲われる。


『午後はどうすんの？』
「んー、眠いかも…」


食器を片してから、二人でソファに腰かけていた。




すると聞こえてくる。

女性の歌声。





海斗と顔を見合わせる。

好奇心に満ちた瞳。

音が漏れてくる部屋の前に来て中を覗き見ると、音楽スタジオのような空間が広がっていた。
キーボードにドラム、スピーカー、アンプまで揃っている。OBの人、凄いなぁ。こんな部屋まであるんだ。

部屋の中央には、エネルギッシュにギターをかき鳴らしながら歌っている女性。

視線をこちらによこした彼女が、ぱっと明るい笑顔に変わる。


「どうぞどうぞ！入って」
「あ、すみません練習中に…」
『…すみません』
「ぜんっぜん大丈夫、むしろみんな使える部屋だから！」


淡いブルーのワンピースを着こなした小柄な彼女は、ぶんぶんと大きく手をふった。

別の車で来ていたのかな。
きちんと話すのは、今日が初めてだった。

海斗がぐっと緊張するのが分かる。


『あの…すごいお上手ですね、歌』
「はい、感動しました」
「いや〜そんな、あ！私、ミカって言います。教育学部の三年です」
『まつくらかいとです。一年です』
「Aです、同じく一年です」
「新入生ちゃんか〜二人とも可愛い！Aちゃん、と…このサークルはカイトが多いから松倉くんでもいい？」


はい、と控えめに返事をした海斗。

そんな姿を見て、うふふ、と可愛らしく微笑んだ。

ショートカットの毛先が揺れて、同時に、ふわっと柔軟剤のようなお花のかおり。

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