Lost & Found【橙】

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着いたその日はそのまま宴会になり、みんな寝落ちしてしまったけれど、翌日からは完全に自由行動だった。


緑に囲まれて静かに佇む別荘。

テラスに出てギターを弾くもよし。
湖が近いから、そこで思う存分歌うもよし。
まぁこんなに暑い季節、いくら避暑地とはいえ外で歌うのはなかなかの気概が必要そうだけれど。


そう考えて、まだ涼しい早朝に山道を散歩することに決めた。

ザクザクと地面を踏む感覚が気持ちいい。

ここって動物出てきたりするのかな。
野生のリスとか、鹿とか、見たいな。

ふと生き物が苦手な海斗を思い出し、笑みがこぼれる。

あんな小動物みたいな見た目なのに、きっと、小鳥一匹いるだけでビビり倒すんだろうな。

…明日は海斗も散歩に誘おう。









二人でギターの練習をする。

お昼休憩をするか、という話になってサンドウィッチをつくり始めた。
こんなに広いキッチンは使ったことがなくて、一緒にあちこちを開けては驚いたり。

不思議な器具を取り出してはレバーをぐるぐるする姿。


『なんだこれ？』
「あれじゃない、あのー…パスタ作るやつ」
『おー！すげぇな！作りたい！イタリアやりたい！』
「ねぇ、今はフライパンが欲しいんだけど」
『あぁ。ごめんごめん』


真顔でそう言っては、また変なものを取り出すから全然進まない。

おかしくて、お腹を抱えながら笑い合った。


打ち解けるまで時間はかかるけれど素を見せてくれるようになれば、こんなにも無防備な笑顔を見せてくれる。

そこが海斗の良い所でもあり、私が不安に思うところでもあった。




1人暮らしになってから、たまに料理をするらしい。

最近鍛え始めたのかな、エプロン姿がサマになっている。
その白シャツだって狙ったみたいに似合っているし。


なんだか私だけ惑わされているのが悔しくて、真剣に作っている海斗の右の横顔。
ほくろを指でなぞる。


一瞬ビクッとした後に、あぁまたか、というような表情。

それだけで驚きはしない。


目の下から唇の下、横にスライドさせて、１、２、３、４、５、６、


『あれ、また増えた？』
「うおぉい！んなわけねぇだろ。さ、できましたよ」


照れを隠すようにふざけた口調。

気を許した人にしか触れさせない海斗が、本当にムカつく。




これが私たちの日常で。

そんなゼロの距離をこれ以上縮める方法が、私にはどうしても分からなかった。

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