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秋学期も終わりに近づいてきたある日。
食堂で友人たちと話していると、突然肩を叩かれた。
振り返ると、ミカ先輩が申し訳なさそうな微笑み。
「ちょっとAちゃんお借りしてもいいかな?」
いつも柔らかな空気に包まれている気がする。
背負っているギターが小柄な彼女を際立たせていて、女性の私でも守ってあげたくなるほど魅力的だ。
場所を移動して着いたのは、例のカフェテリア。
意外にもコーヒーはブラックで飲むんだ。
「最近は中村くんと仲良くしてるんだね」
「あ、はい…」
「私は松倉くんとバンド練ばっかりで」
「え?バンドするんですか?」
「あれ、聞いてない?今度4月のライブ、ツインギターでやるの。先輩たちももう卒業だからAちゃんも絶対来てね」
「…はい、もちろんです」
「私も4年になったら就活とかであんまり参加できなくなるからなぁ。松倉くんと組めるのもこれが最後」
「そうですね…」
「で、その彼のことなんだけど、仲の良いAちゃんに相談があって」
直感的に聞いたら駄目だ、と思った。
でもなぜだろう、ピアスに手を添えた彼女から目を離すことができない。
「その、しちゃったんだ」
心臓がドクンっと鳴って、呼吸が止まった。
言葉にならない。
誰と、なんて聞かなくても分かった。
「私の元カレね、ストーカー気味で」
「はい…それは聞いてます」
「助けに来てくれたその日に迫られて、断れなくて…でも!全然無理やりとかじゃないのよ、優しかったんだけど」
想像していた通りだった。
あぁ、本当に海斗は先輩と。
「ねぇ。松倉くんって、私のことどう思ってるのかな?」
不安げな表情でこちらを見る。
本気で私に相談しているんだろうか。
いや、そんなはずはなく。
この人は、他でもない私に言わせようとしている。
「Aちゃんなら、何か聞いてるのかなって」
「海斗はミカ先輩のこと…好き、だと思いますよ」
絞り出した声は震えていた。
漫画みたいに、目の前にある水をかけてしまいたい。
でもそうした途端に、その物語の主人公は私ではなく彼女になってしまう。
「私の方が先に好きになったのに」なんて、脇役のセリフが頭に浮かんでから消えていった。
「う〜ん。そうかなぁ…でもそうだとしたら、気持ちに応えてあげることはできなくて」
「どういうことですか?」
「その…実は、元カレとこの前きちんと話し合ったんだけどね。もしかしたらよりを戻すかもしれなくて」
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N11(プロフ) - maminaさん» 初めまして、コメントありがとうございます。揺らぎからですか!引き続き読んでくださっているようで、感謝しかありません。こちらの不手際でご迷惑をお掛けいたしました!公開しましたので是非ご覧ください。 (2021年3月7日 22時) (レス) id: f61069127a (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - あさん» 初めまして、コメントありがとうございます。こちらの不手際でご迷惑をお掛けいたしました!公開しましたので是非ご覧ください。 (2021年3月7日 22時) (レス) id: f61069127a (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - キさん» 初めまして、コメントありがとうございます。泣きそうになりながらなんて…!とても嬉しいです。こちらの不手際でご迷惑をお掛けいたしました。公開しましたので是非ご覧ください。 (2021年3月7日 22時) (レス) id: f61069127a (このIDを非表示/違反報告)
mamina(プロフ) - 初めまして。揺らぎから大好きでLost&Foundも毎回楽しみに読んでました。#2に続いてまつくのダークサイドみれるのかと思ってドキドキです!宜しければパスワードを教えて頂きたいです。宜しくお願いします。 (2021年3月7日 21時) (レス) id: 9fd2043a8e (このIDを非表示/違反報告)
あ - 初めまして!最近からLost & Found読ませていただいています!よろしかったら#2のパスワードを教えて頂きたいです。 (2021年3月7日 20時) (レス) id: 89732c56da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:N11 | 作成日時:2021年2月12日 0時