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無機質な高層ビルを見上げる。
風が寒くて、マフラーに顔を埋めた。
ここで合ってるよね?
選ばれた作品はCDになるらしい。
うみが応募しろと言ってきたオーディションのようなもの。
とはいってもデモを送っただけで、まさか通るなんて思ってもみなかった。
そんなに甘くないでしょうとは思いつつ、何も知らない私が期待してしまうのは当然で。
案内されたのは、会議室のようなところ。
40代ぐらいの落ち着いた男性から名刺を受け取った。
「ご存知の通り、今度うちからインディーズデビューするバンドの曲を決めるオーディションでして」
「…はい」
「素晴らしい曲をご応募頂きまして、ありがとうございます」
正直、出していたことすら忘れていた。
自己満足で作ってはいたものの、他の人に評価してもらえることは素直に嬉しい。
「堅苦しい話なんですが、まぁリラックスしていきましょう」
要するに。
私が応募した曲が、あるバンドのデビュー曲に選ばれた。
買い取りの契約らしい。
男性はぺらぺらと難しい単語ばかり並べたてている。
「この歌詞とか、すごくリアルですよねぇ」
「そう…ですかね」
「失恋の表現とか、実体験だったりします?もしかして初恋とか?」
デリカシーに欠ける、馬鹿にしたような笑い声に違和感を覚えた。
確かに海斗のことを想って作り上げた曲だ。
でも、そんな風に言われるために作ったわけではなくて。
「実はちょっとイジってみたんです」
「…はい?」
「うちのスタッフは優秀ですからね、必ずヒットしますよ」
聞いてくれよ言わんばかりの満面の笑みでパソコンを操作する。
流れてきた曲を聞いて、怒りより先にため息が出た。
ベースの和音に1オクターブ上の音が加わっていて、すごく今っぽい曲調。
耳馴染みが良いのは、シンコペーションのおかげかな。
盛り上がりの付け方も。
悔しいぐらいに、やりたかったことが全て表現されている。
でも、これじゃあまるで。
どこにでも流れているような王道の失恋ソングだ。
特別なように感じていた海斗を想った歌詞もメロディーも、陳腐なものにしか聞こえなくて。
どうしようもなく悔しい。
私はただの大学生だから。
プロが作った方が良いに決まっている。
才能のない私がいけないんだ。
そう頭では理解しているつもりでも。
理由のない喪失感。
「是非、ご検討をお願いしますね」
普通なら喜んで飛びつくその言葉に、すぐに返事をすることはできなかった。
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N11(プロフ) - maminaさん» 初めまして、コメントありがとうございます。揺らぎからですか!引き続き読んでくださっているようで、感謝しかありません。こちらの不手際でご迷惑をお掛けいたしました!公開しましたので是非ご覧ください。 (2021年3月7日 22時) (レス) id: f61069127a (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - あさん» 初めまして、コメントありがとうございます。こちらの不手際でご迷惑をお掛けいたしました!公開しましたので是非ご覧ください。 (2021年3月7日 22時) (レス) id: f61069127a (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - キさん» 初めまして、コメントありがとうございます。泣きそうになりながらなんて…!とても嬉しいです。こちらの不手際でご迷惑をお掛けいたしました。公開しましたので是非ご覧ください。 (2021年3月7日 22時) (レス) id: f61069127a (このIDを非表示/違反報告)
mamina(プロフ) - 初めまして。揺らぎから大好きでLost&Foundも毎回楽しみに読んでました。#2に続いてまつくのダークサイドみれるのかと思ってドキドキです!宜しければパスワードを教えて頂きたいです。宜しくお願いします。 (2021年3月7日 21時) (レス) id: 9fd2043a8e (このIDを非表示/違反報告)
あ - 初めまして!最近からLost & Found読ませていただいています!よろしかったら#2のパスワードを教えて頂きたいです。 (2021年3月7日 20時) (レス) id: 89732c56da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:N11 | 作成日時:2021年2月12日 0時