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物思いに更けていると、馬車が急に止まった。
いつも運転している志麻君がこんな止まり方をするなんて…
なんて驚いていたら、扉が開き苦笑いをしている志麻君の姿が。
「…センラ。」
「なんや？」
「お嬢様、あれか？」
「…A！？」
志麻君が指さした先、俺達が幼いころ秘密基地としてよく遊んでいた小屋の前に
夜に紛れるような紺色のドレスを着て、彼女は立っていた。
居てもたってもいれなくて、馬車から飛び降り彼女の元へ走る。
「A！！」
「センラ…君？」
「A……会いたかった…」
「うん…私も。」
はにかんで笑う彼女の目が徐々に潤みだす。
居てもたってもいられずに、その手を引いて自分の中に閉じ込めれば
おずおずと背中に手を回してくれる彼女…あぁ、変わっとらんな。
「…元気、やった？」
「うん…大丈夫だよ。」
「そか。」
話したいことも、伝えたいことも山ほどあったはずなのに
抱きしめて、その存在を確かめてしまえばすべて消えてしまった。
…あぁ、離れたくないなぁ…そんなこと、願ったらだめなんやけど。
とにかく…彼女を泣き止まさないと。
「A、上見てみ。」
「上…？うわぁ…！！」
「今日は、星合…七夕やからな。」
空を見上げれば、無数の星々が瞬いていた。
天の川もできていて…狙ってはいたけど、俺らホントに織姫と彦星みたいやな。
親のせいで、引き裂かれた恋人…俺らは恋人やないけど。
好きなのは、両想いなのは俺らしか知らんけど。
「…センラ君。」
「なんや？」
「ずっと好きだった。これからも、ずっと。」
「俺もや、Aのこと…愛してる。」
今日、この日、今宵限りは愛を囁き合っても許してほしい。
今日が終わってしまえば、俺らはただの他人になってしまうから。
「せやから、今日だけは…隣におって？」
「もちろん…」
小屋に入り、手をつなぎ、抱きしめて、色々な事を話した。
幼いころに戻ったように、騒いだり
こっそりお菓子を食べたり…楽しいひと時はあっという間だった。
「…そろそろ、夜明けか。」
魔法が解けるまで、あと少し。
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