【歌い手】 優しさを知らない少女の歩む道には。

三十六歩... ページ44

『まふくん、いつもごめんね。
つきっきりでアタシの傍にいてくれてるけど、お友達とか…。』

まふ「大丈夫だよ〜。
ボク、相変わらず友達少ないし。」

まふくんは、いつまでも優しいままだった。
アタシの傍にいて、いつも笑ってくれる。
いつだって、アタシの名前を、あの頃のように呼んでくれる。

『…ねぇ、まふくん。
るすくん、だっけ？は、いいの？
お友達でしょ？最近見かけないけど。』

るすくんは、よくまふくんと一緒にココに来てくれていた。
でも、最近はなかなか来ていない。
どうやら、以前アタシの知り合いのようだが、記憶にない。

まふ「…また、来てくれるよ！
ボクがまた誘っておくから！！」

まふくんが焦ってアタシに笑顔を向ける。
その笑顔の裏側に、アタシは気づかないふりをした。
本当は、気づかなきゃいけないのに。

『うん。ありがとう。
…まふくんは、傍にいてくれる？』

不安で仕方がないんだ。
いつか、まふくんまでもアタシから離れていきそうで。
アタシはもう、一人になりたくない。
もう、あんな惨めさはごめんだ。

まふ「Aちゃん、教えて欲しいことがあるんだけどさ。」

『ん？アタシに分かることならいいよ。』

まふ「じゃあ。
…Aちゃんは、死にたいって思ったこと、ある？」

『えっ？』

“死にたい”
その言葉は、誰もが言った事あるだろう。
軽い気持ち、かまってほしい気持ち、どうしようも無く絶望した気持ち。
様々な時に言われるこの言葉に、もうみんな大した意味は考えないだろう。


でも、まふくんの言った死にたいは、そんな軽いものじゃない。

『…ある、よ。
誰にも存在すら認めてもらえなくて。
なにも出来なくなった能無しに、生きる価値が見いだせなくなって。』

まふ「能無し…？」

『アタシのお母さんの口癖。
“アンタは能無しで、何もできやしない。何のために生きてんの”って。』

“どうせ親が生んだからって思ってるんでしょう”
その言葉が悔しいほど当たっていて、笑っちゃうほど外れていた。

『誰も望まない人生に、何の意味を探すのかさえ、分からないのに。』

まふ「Aちゃ…」

『まふくん、いいんだよ？
アタシから離れていっても。
アタシが厭なら、早く離れてよ。
誰かに依存する前に、離せなくなる前に、アタシを捨ててよ。
みんなそうしたんだから。』

お母さんも、お父さんも。
結局アタシはいらなかったんだ。

まふ「…バッカじゃないの？」

まふくんは、震えた声でそう言った。

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