【男性声優】同業者のあの子 ３[完]

130. ページ32

※界人くんのことを好きな新人さん目線です
苦手な方は130.131はご注意ください。




好きだなあと思ったのは、仕事に対する真面目な姿勢とか、たくさんの事を教えてくれる優しいところとか、笑顔とか。

気付いたら目で追っていて、誰よりも褒めてもらいたくて、いつかヒロイン役で隣に立てれば、なんて思っていたのになぁ。


「界人さんっ」


「あ、うん。どしたー」


私を見る目が、優しかったから。
もしかしたらなんて思ってしまったのがそもそもの間違いで、いつだって界人さんの視線の先にはあの人がいた。それがなんだか悲しくて悔しくて、だから、つい、あんなことも言ってしまった。


「でも梅原さんとAさんだって近くないですか〜？あ、やっぱりあの噂って本当だったんですね〜」


お酒の席だから、少しくらい許されるだろうと軽い気持ちでそれを口に出すと、ひと目でわかるくらい複雑そうに顔を顰める界人さんがいて、こんな顔をさせたかったわけじゃないのにと一瞬で後悔した。

セコムだなんて呼ばれてるけど、それはあくまでも上辺だけだと思ってた。誰にでも優しい、界人さん。取り繕うようにそんな事言っちゃダメだと笑って窘められ、何事も無かったように振る舞う姿に胸が痛くなった。


・

・


「えっ、飲み過ぎた？大丈夫？ほら水飲んで」


「うぅ〜、すみません…」


やるせない気持ちになった私は慣れないアルコールを飲みすぎてしまい案の定気持ち悪くなってしまった。気付いた界人さんと女性のスタッフさんに水を勧められ、周りのスタッフさんにも促され先に帰らせて頂くことになった。あちらの席の方にもご挨拶を、とは思ったけど、伝えておくから大丈夫だと言ってくれた界人さんやスタッフさんに甘えてそのまま帰らせてもらうことにした。正直、今あの人の顔を見るのは辛いので有難いと思ってしまった。

店の出口まで送ってくれるという界人さんに甘えて、外まで腕を掴ませてもらって歩く。さっきまであんなに気持ち悪かったのにもう随分とマシだし、これならタクシーどころか電車ででも帰れそうだけど、…送ってくれたり、しないかなぁ。


「危ないからタクシーで帰って。タクシー代俺が出すから」


「え、やっ！でも！」


「また気分悪くなっちゃうかもしれないしタクシーの方が楽じゃない？」


そんな私の下心には全く気付かずタクシーを捕まえてくれようとする界人さんに、今しかないと勇気を振り絞って腕をぎゅっと掴んで引き止める。

131.→←129.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す