【男性声優】同業者のあの子 ３[完]

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きっかけは些細なことだった、と思う。
他愛もない、いつも通りの電話でのやり取り。なのに、お互い疲れてたのか、今まで積もったものもあったのか、それのどっちもな気がするけど、気が付いたらお互いを言葉で傷つけ合っていた。

イライラした態度を隠すことすらしない界人に腹が立って、余計に冷たく接してしまった。朝が早いから、という理由で切った電話はその後数日間、着信を知らせてくれることはなかった。

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「もうさぁ、いい加減仲直りしたら？」


「…だって向こうもなんも言って来ないし」


「そうかもしれないけど、」


界人にも同じように相談を受けてそうなこの人を捕まえたのはちょっと狡かったかもしれないけど、タイミングよく仕事が被ったのでご飯を食べながら相談に乗ってもらう。

正直な話、日が経つにつれて既にあの時程のイライラはなくなっている。だけど、どうやって仲直りすればいいのかわからないまま、時間だけが過ぎてしまっていた。


「Aちゃんがごめんね？って言えばすぐ仲直り出来るんじゃないの？」


「…壮馬くんもそう思う？」


「んー…、Aちゃんは納得いかないかもしれないけど、たぶん界人くんも意地になってるからさ、」


我ながら子供っぽいとは思うけど、たしかにちょっと納得いかない。だって、私だけが悪いわけじゃないし、あんな態度とった界人だって悪いでしょ。それが顔に出ていたのか、困ったように頬杖をついていた壮馬くんが小さくため息を吐いた。


「Aちゃんに折れろって言うわけじゃないけどさ、界人くんも悩んでたよ」


「…界人、なんか言ってた？」


「あー…うん」


「…」


「これ俺が言って良いのかわかんないけど、…仲直りしたいけど、きっかけがないって」


きっかけがないって何だ、と思わないでもないけど、彼なりに悩んでくれているらしい事はわかった。そして間に挟んでごめんね、壮馬くんという気持ちを込めて空いたグラスと同じものを注文する。ありがとう、と声をかけてくれることを忘れない壮馬くんになんだか溜飲が下がった気がする。


「一応界人くんにも、ちゃんと話して謝んなよって言ったんだけどね」


「うん…」


「酷いこと言っちゃって傷付けたから、連絡しづらいって」


「女子か」


「こら、茶化さない」


ぺしと、額を軽く叩かれ思わず顔を見合わせて笑ってしまう。持つべきものは同じ事務所の同い年の友人だなあと思いながら、追加のビールを注文した。

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