ロンリーオンリーパラダイス

My precious one　-side.Ki- ページ42

「仕事と私、どっちが大事なの？」

半年付き合った彼女に泣きながらそう詰め寄られた時、俺は内心またか、ってため息をついていた。

「私、北山さんに憧れていて。もし良かったら私と付き合ってくれませんか…？」

半年前そう言われた時は嬉しかったし、可愛いな、とも思った。

でもきっと。

それだけだったんだろうな、と今になって思う。

その証拠に。


「仕事でしょ、普通に考えて」


彼女がそんな答え求めてないって分かっていて、俺はそう答えていた。

「ひどい…！最低っ！」

その頃の俺は、仕事で干され気味で、でもまだ諦めきれずにもがいていた時で、自分に余裕がなかったんだとも思う。

当然のようにその彼女とはダメになった。


「北山、今度の案件。よろしく」

部長に渡された資料を一瞥して言う。

「…またラーメン屋の立て直しっすか」

「まあまあ。そのうちまた違う仕事も振ってやるから」

部長は副社長派だから。

俺のこと気に入ってくれてる専務が副社長と次期社長の座を狙って揉めているから全然やりたい仕事をさせてもらえなくなった。



家に帰ってため息をつきながら、資料をぱらぱらめくる。

家系ラーメン、ねえ。

とりあえず情報収集からするか、ってネットで評判のいい店の口コミを見たりする。

ふ、と思い出して、インスタを開いて見てみた。

「あ、アップされてる」

いかついハシビロコウがアイコンのはっしーさんは、だいたい金曜日の夜にインスタを上げてる。

今日たまたま家系ラーメンだった。
ふーん、星3。

いいね、を押したあと、『はっしーさん的家系ラーメンのおすすめあれば教えてほしいです』ってコメントしてみた。

しばらくそのままスマホを放置して風呂入ったりしてたら、インスタの通知音がやたら鳴ってる。

見てみたら、はっしーさんからで、『長くなるのでDMに送りますね』って返信があって。

DMを開くと、お店のURLがいくつかと、その一個一個にめちゃくちゃ丁寧な解説付き。

「長っ！」

画面をスクロールして思わずその長さに笑ってしまう。

最後に、『ごめんなさい！つい熱くなっちゃいました』って書いてあって。

あー、俺。

そういう気持ち忘れてたな、って思った。

好きな仕事してた時はそうだった、夢中だったし熱くなってた。

『ありがとうございます、嬉しいです』って送ったら、
『引かれなくてよかったです』って返ってきたのを見て、思う。


はっしーさんって。


男だと思ってたけど女の人？

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