ロンリーオンリーパラダイス

16. ページ16

翌日。

給湯室でコーヒーメーカーの水を入れていると。

ドアが開いて。

「Aさん！昨日はごめん！」

土下座する勢いで藤ヶ谷くんが頭を下げた。

「い、いいよ。大丈夫だった？あれから」

「彼女に水浴びるくらい飲まされて、説教された」

ふ、と下げてた目をあげる。



「Aさん」



じいって見つめてくる。


「な、何？」

「……俺に何か言いたいことある？」

何か？

え？

ふれたいとか思ったことまさかばれてないよね？


「……お」

「お？」

「…お酒はほどほどに」

「返す言葉もございません」

がくってまた頭を下げる藤ヶ谷くんに、笑ってしまう。


「お酒弱いなら飲まなくていいって言ったのに、どうして飲んだの？」

「それは…なんていうか。ちょっとかっこつけた……」


こらこらこら。


そんな恥ずかしそうにそういうこと言うんじゃない。


「けどむしろかっこ悪いとこ見せて、まじで何やってんだろって。結局打ち合わせもできてないし」

「だね」

「今度は飲まないし、ちゃんとする」

「うん。まあ若い時はお酒の失敗くらいすることあるしそんな気にしなくていいよ」

また行けそうな日をラインでやり取りすることを決めて、別々に給湯室を出る。


もうすぐこんな風にラインすることだってなくなる。

来週の金曜日。

1日だけ彼女の振りしたら、全部終わるんだ。




・




今週の金曜日は、この間テレビで見て絶対ここしかないっていうくらい行きたかった「神楽」っていうラーメン屋さんに行った。

仕事終わってすぐ向かったけど、会社から少し遠かったし、テレビに出たからか、すごく並んでいる。

でも並ぶのもわくわくして楽しい。

あ、インスタ用に外観も写真撮っておこうかな。


前に並んでる少し小柄な男の人も外観の写真撮ってる。

待ってる間暇だから、インスタをのぞいていると、キタミツさんがストーリーに写真をアップしてた。

見てみると。

「え？」

思わず声が出てしまった。


到着ーって書かれた文字の後ろにはどう見ても、「神楽」の外観。

キタミツさんも神楽にいるんだ。

って、もしかして。

外観の写真撮ってたし。

前に立ってるこの人、なのでは。


そうっと目線を上げて、後ろ姿を確認。

白のニット着てておしゃれなスニーカー履いてる。

私も今神楽ですよーってDMしてみようかな、って迷ってたら。



前の人が、くるん、って振り向いた。

17.→←15.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す