ロンリーオンリーパラダイス

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電話を切ったあと、藤ヶ谷くんはすぐにまた眠ってしまった。

タクシーの窓から流れる夜景を見ながら、私はひとつ息をついた。


きっと気のせいだ。

ふれたい、と思ったことも。

彼女とのやり取りに、胸がちくん、と痛んだことも。


「着きましたよ」


タクシーの運転手さんの声に我に返る。

「あ、は、はい。
私すぐ戻るのでここで待っててもらえますか？」

「いいですよ…でも」

人の良さそうな運転手さんが少し困ってる。

「一人で行けます？ついて行きましょうか？」

見るとさっきよりもぐっすり眠ってる藤ヶ谷くん。

「藤ヶ谷くん、起きて。着いたよ」

揺すったら薄く目を開けたから、運転手さんには車で待っててもらって、マンションの中まで行く。

「藤ヶ谷くん、何階？何号室？」

「7階の、はじっこ……」

「鍵ある？」

とかやってたら、玄関のドアが静かに開いた。

「ご迷惑かけてすみません」

ゆるいお団子頭でまるい眼鏡をかけた、めちゃくちゃスタイルのいいきれいな人が、頭を下げた。

たぶんすっぴんだけど、肌が抜けるように白くてきれい。

「たいちゃん何やってんの」

べしって頭たたかれてる。

「本当にすみませんでした」

「い、いえ」


そのまま静かに閉まるドア。


タクシーに戻ると、運転手さんが少し笑って言う。

「お酒弱い彼氏だと大変だねえ」

「…彼氏じゃなくてただの後輩です」


藤ヶ谷くんの彼女は。

すごく可愛らしい人だった。

今まで『彼女』っていうぼんやりした存在だったのに、急にリアルになった。


勝手に人妻だとか思ってたけど、それにしては若く見えたし。

若い人妻なのかもしれないけど。

すごく仲良さそうですごくお似合いだった。


ただ気のせいじゃなかったら。

…どこかで会ったことあるような。

どこだっけ。



……どこでもいいか。

私は頭を振った。

もう考えないようにしよう。


今日は帰ってシャワーを浴びたら、キスミーのCD聴きながら何も考えないで眠ろう。


ユウタの声がとびきり甘いやつ。

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