ロンリーオンリーパラダイス

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結局。

そのあと眠そうな藤ヶ谷くんと詳細な打ち合わせができるはずもなく。

足取りがおぼつかない藤ヶ谷くんを支えて、タクシーに乗せる。

「一人で帰れる？」

「無理ー、絶対寝ちゃう」

「じゃあ一緒に乗るから、寝る前に住所言って」

めんどくさいことこの上ないのに、まあいいか、って思っちゃうのはどうしてだろう。


「Aさんももっと飲んでよー」

「飲まないよ。お酒弱いなら無理しなくてよかったのに」

「だってー」

だってー、って子どもか。


タクシーがカーブに差しかかったところで、私の体が藤ヶ谷くんの方に少し傾いて。

肩と肩が、とん、ってふれた。

そのタイミングで藤ヶ谷くんが、こてん、って私の方に首を傾けてきた。


藤ヶ谷くんの香りと、体にかかる重み。

耳元で、すうすう気持ちよさそうな寝息が聞こえる。


私は、戸惑っていた。


無防備な藤ヶ谷くんに。


ふれたい、と思ってしまったことに。


何これ、私も酔ってるの？

それとも母性本能的な何か？


ふと目を落とすと、藤ヶ谷くんの力の抜けた手が私の膝の近くにあって。

自分でよくわからない衝動にかられて、私は手を伸ばしていた。


あと数センチでふれる、という時に。


藤ヶ谷くんのスーツのポケットで、スマホがブーブーって震えて、私は慌てて手を引っこめた。

え？

何してたの、私？

藤ヶ谷くんの手握ろうとしてた？


いやいやいや、駄目でしょう。


ポケットの中から聞こえる振動音はなかなか鳴り止まない。

「ふ、藤ヶ谷くん、起きて。電話鳴ってるよ」

「……んー？」

「電話！」

「…でん、わ」

まだ半分寝ながらポケットをごそごそしてたら。

取り出したスマホを、椅子の下に落としてしまう。

もう、世話が焼ける。


いったん切れていたスマホは、私が拾ったと同時にまた震え始めた。

その画面には、「みい」って、名前が出ていて。

直感的に、あ、彼女だ、って思った。


「はい、早く出なよ」


「……もしもしー、うん。今タクシーで帰ってるー」


酔ってるのもあるだろうし、たぶん相手が彼女だっていうのもあるだろうし、いつもより甘い藤ヶ谷くんの声。


「ほんとに？嬉しー……」


いや別に聞き耳立ててるわけじゃないけど、聞こえちゃったんだよ。


待ってるね、って言った彼女の声も。

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