ロンリーオンリーパラダイス

27. ページ27

桐谷さんは最後まで納得しているようには見えなかったけど。

とりあえず付き合ってることは事実だって信じてはくれたみたいだった。

「沙耶香。もう藤ヶ谷くんに無理を言ってはいけないよ」

佐々木部長が言うと、桐谷さんは不満そうに、はあい、と返事はしていた。


お店を出て、笑顔で会釈しながら佐々木部長と桐谷さんと別れると。

私は思わず藤ヶ谷くんに詰め寄った。


「ちょ、ちょっと！どうするの？
一日だけのはずだったのに。まさか桐谷さんが来るなんて」

「ね、びっくりしたね」

そう言いながらも、なぜか笑ってる藤ヶ谷くん。

「いやいやいや、笑いごとじゃないよ？
だって明日からもずっと彼氏彼女のフリだよ？
しかも会社の人にもばれちゃうかも」

「そうだね」

「いやだから。笑ってる場合じゃないって」

「あ、ごめん。
嘘だってわかっててもさ。Aさんが言ってくれたこと、なんか嬉しかったなって思って」

「え？」

「心が広くてあったかい、とか。
普通に嬉しかった」


「……適当に言っただけだよ」

「わかってるよ」

「私は。嘘つき続けるの無理だと思う」

「でもいきなりやっぱり嘘でした、はちょっと。
佐々木部長との付き合いもあるし。
もう少しだけ、お願いできないかな」


はあって小さくため息をつく。


「もう少しだけだよ。
ほとぼりが冷めたら、別れたことにして」

「ん、わかった」


ああ。

どうしよう。

ちゃんと線が引けるだろうか。


「…Aさん」


急に藤ヶ谷くんが立ち止まったから、振り向くと。


藤ヶ谷くんに突然抱きしめられた。


「…え、ちょっ、と」

藤ヶ谷くんの息が首筋にかかる。

「……桐谷さんが見てる」

耳元で囁かれた。


頭では理解していた。

桐谷さんが見ているから、恋人らしく見えるように藤ヶ谷くんがしたことだって。

でも、藤ヶ谷くんへの気持ちを自覚したあとでのこれは。

これは。



「…もう行ったみたい。後つけて来てたっぽいわ」

「……」

私はどくどく音を立てている心臓の音を抑えるのに必死で、返事ができない。

「Aさん、電話鳴ってない？」


顔をあげられないまま、カバンの中からスマホを出す。


画面には「みっくん」と出ていた。

28.→←26.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す