唐突なアドリブ ページ45
「ありがとう、君のおかげでこれからの部活も合宿の一手もなんとかなりそうだ……! 苦労をかけるね、本当に感謝してるよ」
「そ、そんな大袈裟ですよ! 私は普段からみなさんにはお世話になってますし、その、お誘いを受けたことはとても嬉しかったですし」
よほど部活にマネージャーの存在がほしかったのか、幸村先輩は珍しく感情を顕にして興奮した様子で私の両腕に手を伸ばすと、そのまま勢いよく私の腕を上下に振った。
儚げで細身な見た目とは裏腹に、やはり彼も男子。男の力とはすごいもので、その姿からは想像できないほどの力で私の腕が千切れるんじゃないかと思うほどただひたすらに振り続けていた。
「ナイスだな、柳」
「ああ。今までこつこつとデータをとってきた甲斐があった」
「ま、俺の情報提供があってこその結果じゃな」
「貴方のそれはほとんど盗み聞きでしょう、仁王くん」
後ろでコソコソ会話をする四人組をよそに、私は用意周到な幸村先輩から早速入部届けを受け取る。帰宅部故にわからないことだらけだったためいくつか入部届についても説明を聞いて、私はそっとブレザーのポケットの中にそれを仕舞い込んだ。
「本当に感謝しているよ」といつまでも深々と頭を下げる先輩に「大袈裟ですよ」と笑う。先輩も同じように笑って、肩にかかったジャージをもう一度掛け直した。
「じゃ、早速水野さんから一言もらおうかな」
「え?」
ノリノリな幸村先輩はそのままそっと正レギュラーの人たちの元へと近いて、気がつけばレギュラー陣を前に私がただ一人仁王立ちで立ちはだかっているような構図になっていた。
これは……あれか。新人さんから一言ってやつか。つまりアドリブか、そうか。
あいにく私に優れたアドリブ力は一欠片もない。どうにでもなれとヤケクソで敬礼をして、それとは裏腹に意図せず「あー……」とやる気のない声で話を切り出す形になってしまった。
「や、やるからにはしっかりやるつもりなので、よろしくお願いします!」
素直に浮かんだ言葉だけを伝えると、案外ノリのいい先輩方はパチパチと軽快に拍手をした。
かくして、私は今まで一切縁のなかったテニス部にまさかのマネージャーとして入部することになったのだった。
──しかし、この時の私はまだ知らない。まさか、この決断がその後自分で自分の首を絞めることになるとなんて。
世の中「楽しい」だけではやっていけないと、中学二年生の夏にして私はじわじわと実感することになるのだった。主に合同合宿とやらで。
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いしだ(プロフ) - アルテミスさん» アルテミスさん、二度目のコメントありがとうございます……! 続編の方でも変わらず頑張って行きますので、何卒よろしくお願いします(*^^*) (2018年8月19日 21時) (レス) id: 92a349b8e5 (このIDを非表示/違反報告)
アルテミス(プロフ) - 続編楽しみにしています! (2018年8月19日 21時) (レス) id: 2cc54b766f (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - 返信わざわざありがとうございます!夢主さん、ついにマネージャーですね!楽しみです! (2018年8月17日 20時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
いしだ(プロフ) - ユッキーさん» はじめまして。そう言っていただけてとても嬉しいです! 応援ありがとうございます、これからも自分のペースではありますが頑張っていきますねヽ(´▽`)/ コメントありがとうございました! (2018年8月17日 20時) (レス) id: 92a349b8e5 (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - はじめまして!いつも、とても楽しく読ませてもらってます。応援しているので、これからも頑張ってください(*´▽`*) (2018年8月17日 2時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いしだ | 作成日時:2018年7月21日 18時