気まずさにどんでん返し ページ34
「……!?」
私は思わず言葉にならない悲鳴を上げる。
この状況はまさに五里霧中。どんなアクションを起こせばいいのか私には検討もつかなくて、恐らく先輩の腕の中であろうこの体勢のままただわたわたと行き場のない手を空中で彷徨わせることしかできなかった。
「…………」
次第に私も言葉が出てこなくなって、お互いが無言のなんとも気まずい状況の出来上がり。
聞こえてくるのはグラウンドで遊ぶ生徒の声と風の吹く音だけで、それが更に気まずさを加速させた。
嫌なことにもはや恥ずかしいという感情もなくなってきて、私は"これからどうするべきか"と必死に思考に耽る一方。
そして、そんな時沈黙を破ると共に気まずすぎるこの状況をも破ったのは、紛れも無いあの仁王先輩で。
「A」
一体どんな言葉が降ってくるのかと、私は心の中で密かに身構える。とても中学三年生のものとは思えないやけに色気のある声で囁かれたそれは、私の落ち着いたはずの鼓動を加速させるには十分だった。
しかし、続く言葉は私の予想とは遥かに違っていたようで。
「……はは、」
ようやく身体が解放されて視界が明るくなると共に聞こえてきたのは、柄にもなく大声で笑う仁王先輩の声。
恐る恐る先輩の顔に視線を向けると、先輩はなんと涙を流すどころか満面の笑みを浮かべていた。
「えっ……え!? とうとう気が狂いました!?」
「相変わらず失礼な奴やの。気が狂うも何も、この前の続きぜよ」
「こ、この前の……??」
先輩の言っていることも私が今置かれているこの状況も何一つ理解できなくて、私はただ頭にクエスチョンマークを浮かべるばかり。
なんとか整理しようとただでさえ働かない脳みそをフルで回転させるけど、やっぱり何一つ状況は掴めないまま。
そんな私に痺れを切らしたのか、仁王先輩は「ふう……」と一つ息を零してから「計画通り、ぜよ」と前にも聞いたような台詞をポツリと呟いた。…………あっ。
「ま、まさか、あのくだらたない攻防戦の続きですか!?」
「やっとわかったか」
「わ、私はまんまと先輩の罠に引っかかったってことですか」
「ま、そういうことやの」
「本当は失恋したって設定にしようと思ってたんやがな」などと呑気なことを言う先輩をよそに、私は「また負けた……!!」と一人で落胆。
好きでもない後輩に軽率にそんなことするもんじゃないぞこのプレイボーイ!! ……と不満は色々あるけど、そんなことよりも先輩のそのネタの豊富さに驚きだ。
私が先輩に勝てる日は本当に来るのだろうかと自信をなくした、そんなひと時だった。
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いしだ(プロフ) - アルテミスさん» アルテミスさん、二度目のコメントありがとうございます……! 続編の方でも変わらず頑張って行きますので、何卒よろしくお願いします(*^^*) (2018年8月19日 21時) (レス) id: 92a349b8e5 (このIDを非表示/違反報告)
アルテミス(プロフ) - 続編楽しみにしています! (2018年8月19日 21時) (レス) id: 2cc54b766f (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - 返信わざわざありがとうございます!夢主さん、ついにマネージャーですね!楽しみです! (2018年8月17日 20時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
いしだ(プロフ) - ユッキーさん» はじめまして。そう言っていただけてとても嬉しいです! 応援ありがとうございます、これからも自分のペースではありますが頑張っていきますねヽ(´▽`)/ コメントありがとうございました! (2018年8月17日 20時) (レス) id: 92a349b8e5 (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - はじめまして!いつも、とても楽しく読ませてもらってます。応援しているので、これからも頑張ってください(*´▽`*) (2018年8月17日 2時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いしだ | 作成日時:2018年7月21日 18時