生まれ変わっ…え？平安？２【呪術廻戦】

陸拾肆 ページ32

A様はぬるくなった味噌汁を一口飲んで息をつく。



『……私の兄は宵薙春人(はるひと)と言ってな。もう数百年も前に亡くなったが、私が今まで見てきた中で格別人情深く、心優しい人だった』

「そう…なんですか」



今まで見てきた中で初めて見る、慈しみに溢れる表情。A様にとってお兄さんは特段大切な存在であったのだと、一目でうかがえた。



『千代は兄にそっくりだった。容姿ではなく、中身がな。些細な事で一喜一憂するところや、意志が弱いくせに無駄に自信のあるところ…重ねる、とまではいかないだろうが、彼女の陰に兄と同じものを感じていた』



俺の代わりに相槌を打つように、鹿威しがカコンッ、と音を立てる。



『……だから彼女が亡くなった時、兄を失った時のようなどうしようもない憎悪が湧いた。憎悪って言っても、これは子供の癇癪みたいなものだったがな』

「…、あの、A様」

『うん？』

「千代さんは、誰かに殺されたんですか…？」



その質問に、A様は一瞬固まる。動揺した…のだろうか。



『……そうだ、殺されたよ』

「なッ、一体誰に……！」






それには柔らかく微笑むだけで、答えては貰えなかった。そして微笑の裏に隠れる残り香のような愁いに、俺は気付かなかった。

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