生まれ変わっ…え？平安？２【呪術廻戦】

伍拾肆 ページ20

「あれ、A様。今日は町へ出掛けないのですか？」


屋敷の和室でぼんやりとしていた私に、茶を持ってきた椿がそう聞いた。大方、私が千代へ会いにいかないのかと思っているのだろう。


『彼女は嫁に行ったそうだからな…茶屋に行く頻度ももう少なくなるよ』


数日前、茶屋に行った時茶屋で働く千代の母が「千代は嫁に行ったよ」と私に教えてくれた。婚儀はあちらの町で行うと嬉しそうに話していた千代を思い出す。そうか、嫁に行ったのか。せめて別れの言葉くらい言わせてくれても良かったのにな、と私は思った。


「そういえばA様。ある噂を町で耳にしたのですが…」

『噂ァ？』


お盆を両手で抱えている椿が、私の傍に正座で座ってそう言った。噂……呪術関連だろうか。聞かせろ、と私は椿に噂の内容を促した。


「なんでも、その千代さんが嫁入り前に妊娠したとか…大衆は不貞な女だったと──『は？』あっ、ふ、不快でしたでしょうか？！」


思わず低い声を出した私に、椿が焦って私の様子を伺う。千代が妊娠？嫁入り前に？有り得ない。彼女は純真無垢な女性だ。


『…詳しく話せ』

「え、は、はい！」



椿はその後、噂の数々を話した。正直その話の一つ一つに苛立ちを覚えたが、そんなものよりも気になる話があった。


『────身に覚えのない懐妊？』

「はい。件の千代さんは妊娠した事になんの心当たりも無いそうです。しかも、何故か数日で子は産まれ出産後数日で絶命したらしく、胎児も普通よりずっと小さかったそうです。
嫁入りを口実に夜逃げした……と俺が聞いた方は言っていました」


身に覚えのない懐妊。数日で出産。異様に小さい胎児。夜逃げ。


『────……呪胎九相図……………………』
「え？何か言いました？」


椿の怪訝そうな声は耳に入らず、私は黙考する。心当たりがある。前世の記憶という情報で私は確信した。加茂憲倫(脳みそ野郎)の陰謀に、千代が巻き込まれる。


『ッ、椿、少し出る』

「えっ、A様？！」


今は明治初期、確実に受胎九相図誕生の時代だ。あぁ、完全に忘れていた。私の阿呆！！！
加茂家の所持している寺の場所を椿に聞き出し、私は急ぎ足で屋敷を出た。町を逃げてからどれ程の期間が経っているかは分からないが、恐らく既に羂索に囚われているのだろう。懐妊と堕胎を繰り返されているであろう姿は、想像もしたくない。

夕暮れで赤く染った山道を、私は切羽詰まった様子で駆け下りた。

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