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Aは目を丸くして、何度も瞬きを繰り返す。優勝ペアに用意されているのは、豪華なセットにドレスとタキシードでの写真撮影、らしい。
(ってことは、これに出て優勝すれば……私と……スカルくんで……)
頭の中で、甘い想像を膨らませる。
……これは、スカルを誘って、出るしかない。Aは決意して、興奮も冷めぬまま、スカルにメッセージを打つ。
『あのさ、今度イカップル杯ってのがあって、私、スカルくんと一緒に出たいんだけど、どうかな?』
迷いを断ち切るように、半ばヤケになって送信ボタンを押す。イカップル杯に誘うなんて、もう告白しているようなものだ。乱れ打つ心臓を抑えるように呼吸を整えながら画面を見ている。すぐに既読が付いて、そして返信が来る。
『ああ、良いぞ』
胸がさらに高鳴り、手が震える。まさかの二つ返事でOKだったことに驚きを隠せない。……だけどスカルのことだから、深くは考えていないような気がする。Aからイカップル杯に誘った意図など全く考えていなくて、ただ「大会」に出たいだけなのかもしれない。と言うより、そちらの可能性の方が高そうである。Aがあれこれ思案していると、続けてスカルからメッセージが来る。
『ところで、優勝賞品は何だ』
(……!)
動揺したAの手からナマコフォンが滑り落ちて、そのまま床に落ちて派手に音を立てる。慌てて拾い上げて、そういえば前回の決勝戦は(迷子という形で)スカルも見に来ていて、優勝賞品はスイーツ食べ放題のペアチケットだったな、と思い出す。
Aの心に、躊躇いが生まれた。優勝賞品はウェディングフォト。……とても今、そんなことを伝えられる状況ではない、とAは考える。伝えてしまったら、今度こそ告白したも同然になるのだから。
(いずれはスカルくんに想いを伝えなきゃいけないのは分かってる。でも、私はその前に、スカルくんと大会に出たい……)
ナマコフォンを両手で握りしめる。スカルへの本当の想いを言葉にするには、あとほんの少しだけ、勇気が足りなかった。
『……えっと、よく分かんないけど、なんかすごいのが用意されてるらしいよ! あ、参加申込は私がやっとくから!』
足りない勇気を、ひとつの隠し事で補って、Aは送信ボタンを押した。――本当の意図だけを伝えられないまま、Aとスカルのイカップル杯参加が決まったのだった。
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