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歓声が沸き起こると同時にリスポーンへと戻ってきたスカルは、遠くからAの方を眺める。バトル中のあの眼差しは何処へやら、スカルに止めを刺したその場所から動かないまま呆然と立ち尽くしていた彼女は、やがて何が起きたのか理解できないといった表情で辺りを見渡し始める。そこへマゼンタチームのメンバーが嬉しそうに駆け寄って来て、一言二言話しかけられた彼女は漸く嬉しそうな表情を見せた。
そして、彼女はそのまま、満面の笑みで大きく手を振りながら、こちらに向かって駆け出す。遠くて声は聞こえない。だが、口の動きは見ることができる。
(『す』『か』『る』『く』『ん』……)
その言葉を読み取った時、何かに惹かれるように、強い衝動がスカルの身体を前へ前へと導いた。顔は熱くなり、心拍数は上昇し、きゅう、と胸の奥がほんの少し苦しくなるような感覚にも関わらず、心はただ一つの目的地へと向かって進みたがる。
インクの跡を辿りながら、スカルは胸の内から湧き起こる熱い想いが指し示す先――Aの元へとやってくる。
「……良くやったな、A」
「うん!……ありがとう、スカルくん!」
彼女のその笑顔を前にして、スカルの胸の内に宿る熱は更に加速を始めた。既にAは目の前にいる。けれど、それでは足りない。
もっともっと、進みたい。
もっともっと、近づきたい。
心の奥底に秘められた感情が、そう叫んでいる。
(ああ、やっと分かった)
湧き上がる衝動をぐっと堪えながら、スカルは考える。
(オレが本当に求めていたのは、Aとのバトルだけではない)
インクに反射する陽の光が、やけに眩しく感じられる。
(本当に見たかったのは、Aが勝利を叶えた先にある、その笑顔だったんだ)
スカルに追いつきたい。その願いを叶えたAの姿もまた、眩しく輝いて見える。
(オレは――Aのことが好きだ)
スカルは胸に手を当て、胸に宿る熱の意味を、名前を、確かに噛み締める。
「……やっと、気付いたみたいだね」
何処か遠くで、タレサンがそう言っているのが聞こえたような気がした。
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