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(さてと、そろそろ行かなきゃ……)
ステージを取り囲んでいた観客たちが席を立ち、帰り始めると、Aはある目的のため、スカルに連絡を取ろうとナマコフォンを取り出す。
『バンカラ街 第4回フェス ホワイト陣営が全部門1位の圧勝』
画面に残っていた昨日のニュースの通知を消して、Aは胸に手を当て深呼吸する。既に何度もバトルに誘っている仲ではあるが、今回の目的はそれではない。緊張で震える手で、キーを押そうとした――その時だった。
「……ここはどこだ」
背後から……いや、頭上から、聞き慣れた声がする。
「えっ? ……え、うわあぁ!?」
Aが驚いて仰け反るのも無理はない。たった今連絡をしようとしていた本人が、今まさに、旅館の屋根の上にいたのだから。
「スカルくん!? と、とりあえず、こっち来てー!」
スカルのいる屋根に向けて、大きく手を振る。程なくしてAの存在に気付いたスカルは、スーパージャンプでAの隣へと降り立つ。
「スカルくん、一体どうしてここに?」
「オレはパープルチームの練習試合のために、ユノハナ大渓谷に行こうとしていただけなんだが……」
「えっと、ここはクサヤ温泉だけど……」
「……」
少しの間、沈黙が続く。やがてその沈黙を破って、Aがたどたどしく口を開く。
「あのね、スカルくん……私、スカルくんに、渡したいものがあって。今から連絡しようと思ってたから……丁度良かった」
「オレに……? 何だ?」
Aは、バッグの中から綺麗にラッピングされた袋を取り出して、スカルに手渡す。
「その……これ、フェスの時の、お礼」
「……!」
受け取ったスカルの目が、静かに輝き出す。袋の中身は、チョコペンで「ホワイト 優勝 おめでとう」と書かれた、Aの手作りのホワイトチョコレートだ。
「これ……食べて、良いのか」
袋の中身とAとを交互に見ながら、少しだけ浮ついた声で彼が尋ねる。
「勿論だよ」
「ああ。……ありがとう」
その次の瞬間には、既に袋の中身は空になっており、スカルの手元には空の袋だけが残っていた――やはりいつも通り、一瞬で食べてしまったようだ。本当の気持ちを伝える勇気は今はまだ無くて、照れ隠しのために書いた「優勝おめでとう」の文字も、果たして意味があったのかどうかは分からない。
「……美味かった」
「そう言ってくれるなら、嬉しいよ」
好きなものに喜ぶスカルの姿が愛おしくて、Aも自然と笑みがこぼれる。
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