窮鼠なれど王を噛めーその21 ページ15
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い、いよいよ来てしまった。
すっかり空が橙色に染まった頃、俺は食堂の扉の前でごくりと喉を鳴らした。
「後ろつっかえてるよーA」
早く開けちゃいなよ、と俺の頭に手を置く部長。
「…俺、ちゃんとできますかね。」
「何言ってるの。Aがやらなきゃいけない事はその音声を食堂で鳴らしてやる事だけだよ。何も難しい事じゃない。」
そう言った部長が俺の背中を軽く叩いたので、俺はこくりと頷き扉に手をかけた。
重い扉が開いたら、こちらに視線が一気に集まる。
「っ、A…!」
扉の一番近くのテーブルにいたのは比嘉中の皆だった。俺と目が合った甲斐さんが心配そうな顔でこちらを見たのでにっこり笑い返す。
それからぐっと前を向き視線が刺さるのを感じながら俺は食堂の中央へ、先輩はその近くのテーブルへ座る。
しーん。
誰も動かない。誰も話さない。
俺は、その沈黙を破るべく口を開く。
「……俺が持ってきた証拠は、比嘉中が犯人じゃない証拠というよりは、本当の犯人が誰かという証拠です。」
大きなホールに俺の声が反響する。
そして俺は氷帝の皆さんが座るテーブルに顔を向け、跡部様の隣に座っている天海さんを見る。
「まずはこんな話からしましょうか。」
俺はまず、二日目朝に起きた事件について話した。その話で張り詰めて静かだった食堂に、ざわりと皆の声が上がり始める。
そして比嘉中と天海さんとの事、夜の木手さんとの会話について話す。
「…と、言うわけで天海さんと木手さんは言い争いをしたそうです。どんな感じだったかは知りませ…」
「ちょっと待ってA君!」
俺の話を遮ったのは天海さんだった。天海さんは立ち上がって悲しそうな顔で瞳を揺らし、こちらを見た。
「それが証拠なの?そんなの、おかしいよ…A君も、なにかに騙されてるんだよ!」
「騙されているって、これは事実で…」
「確かに、これが証拠だって言うんならかなり不十分だな。」
被せるように俺の声を遮ったのは跡部様。その氷のような目と目が合って俺が口を噤めば、周りのざわつきがどんどん大きくなっていく。それに合わせるように、跡部様の方が大きくなる。
(このままじゃ、収集がつかなくなってしまう…!)
俺は両手を構える。
またまた周囲がざわりと音がでかくなる。
「そもそも、これがあるからって天海が犯人だなんて……」
跡部様の声がして、俺は一気に構えた手を合わせた。
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木こりのコロポ(プロフ) - 日吉和菓子2円さん» コメントありがとうございます!これからもよろしくお願いします! (2018年4月30日 0時) (レス) id: 43368e3037 (このIDを非表示/違反報告)
日吉和菓子2円 - ルドルフ組が可愛かったです! (2018年4月29日 22時) (レス) id: 9521c565b3 (このIDを非表示/違反報告)
木こりのコロポ(プロフ) - 第一部隊さん» コメントありがとうございます!ルドルフの中だと淳が好きなので、かなり淳との会話が多くなってしまったかなと思います…!お気に召して貰えたならなによりです! (2018年4月29日 19時) (レス) id: 43368e3037 (このIDを非表示/違反報告)
第一部隊(プロフ) - ルドルフかわいかったです!家族設定面白い!ありがとうございました! (2018年4月29日 18時) (レス) id: 91bd124fa4 (このIDを非表示/違反報告)
木こりのコロポ(プロフ) - 暁月さん» ご指摘ありがとうございます!訂正しました! (2018年4月29日 13時) (レス) id: 43368e3037 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木こりのコロポ | 作成日時:2018年4月14日 8時