【松岡凛】ばーか (ページ6)

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◯

『りんちゃん、約束、覚えてる？』

そう言って、俯いたままのAを見つめる。

サラサラの髪の毛、白い肌、いつの間にか身長の差もできていた。

Aとした約束、忘れてるわけがねぇ。

「ああ、覚えてる」

『じゃあ、なんで日本に帰っても連絡してくれなかったの…？』

目に涙を溜めて、流すのを堪えるように聞いてくる。

「俺は…あいつらと一緒には泳がねえ」

俺がそう言うと、背中に手を回してぎゅっと力を入れた。

『言ったよね、私。帰ってきたらぎゅってする…って。』

「言ってたな」

オーストラリアへ行く事を伝えた時、ぼろぼろに泣いていたのを今でも覚えている。

⚪︎

「ちゃんと言わなきゃだよなあ…」

『おーい、りんちゃーん！』

笑顔でこっちに走ってくるA。

「俺、こっちの中学行かねえから」

『え…？りんちゃん、同じ中学校行かないの？』

「うん。オーストラリアに、水泳の勉強しに行く」

そう言うと、途端にぽろぽろと涙を流し始めた。

何を言っても泣き止まないAは、遂にオーストラリアに行く、なんて言い出した。

さすがにこんなに泣かれると思っていなかった俺は、大分動揺した。

正直、思っていた以上に悲しがってくれて、嬉しかった気持ちもあった。
…その事は誰にも言ってないけど。

それで、その時に約束をした。

でも、俺は守らなかった。

⚪︎

『なんで、なんで…？私の事、嫌いになっちゃったの？私がはるちゃんみたいに早く泳げないから？』

「別に、嫌いにはなってねえよ。お前は早く戻らなくていいのか？」

『……また、今度ね』

名残惜しそうにプールに戻っていったAの背中を見送る。

「変わってなかったな…」

でもやっぱり、大人っぽくなっていた気がする。

⚪︎