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「…Aさんはどうしてそんなに怪我をしてるんですか?」
暫く頭を撫でていると僕の手を取ってまだ新しい傷を覆う絆創膏を触りながらホソクは眉を下げた。
ついにこの日が来たか、と思った。
たまに見せる顔と同じ表情を浮かべて優しくまだ小さな手で僕の腕を撫でる。
本当はヘジンと二人で話をしようと思っていたが仕方がない。
ホソクの頬を撫でてゆっくり話をした。
「ホソクは吸血鬼って知ってるかい?」
「…はい、知ってます。学校の図書室にある小説で出てきました。…人の血を飲んで殺しちゃうって」
「…そう、その吸血鬼はねこの世界に本当にいるんだよ。僕とヘジンはそうならないように吸血鬼を…、退治してるんだ」
ホソクは息を呑んで僕の顔や身体にある傷を触った。
震えた声で「これ…全部?」と聞いてきたので、静かに頷いた。
少し動揺を見せた後に瞳を潤ませたがそれを拭って真っ直ぐ僕を見る。
「本当にいるんですか?先生は空想の生き物って言ってました」
「いるよ、僕は吸血鬼と人間の間に生まれたんだから…目をよく見てごらん。僕のは黒っぽくて見えにくいけど人間と違って血管が見えるし瞳孔は蛇のように細いんだ」
「え、あっほ、っ本当だ…」
ホソクによく見えるように少し顔を寄せると慌てて俯いてしまった。
怖がらせてしまったかもしれない。
すぐに椅子の背もたれに背中を預ける。
ホソクはどんどん顔を歪めてとうとう泣き出してしまった。
「でも、親と同じ吸血鬼を…何で…」
「吸血鬼は人間のように家族は作らないんだ。血を飲ませて言いなりにすることはあるけどね。……僕の母親は吸血鬼の被害者なんだ」
「……っどうして、…どうしてAさんはこんな傷だらけになってまでそんな事するんですか?」
「母親のように、怖い思いをする人が減って欲しいからだよ。ヘジンも同じ思いで戦ってるんだ。吸血鬼は……吸血鬼は人間の事を、大切に出来ないんだ」
そこまで話すとホソクは何かを考え込んだまま黙ってしまった。
ホソクの答えが何かをゆっくり待つ。
僕がダンピールだと知って嫌悪感を抱く人も少なくは無いから、ある程度の覚悟はしていた。
「僕は……僕は、…Aさんと、同じ血が流れる吸血鬼の中にも仲良くなれる人もきっといると思います」
「…っえ?」
泣きながら、それでも僕を純粋に真っ直ぐと見据えてホソクはそう言った。
驚いて言葉が出なかった。
まさかそんな事を言われるとは少しも思っていなかったからだ。
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作者名:ユウたろー | 作成日時:2023年10月29日 23時