Scratch ページ4
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「Aさん、俺少し働きます」
高校に通いながらハンター業を続けていたヘジンがある日僕にそんなことを言い出した。
ホソクは小学校で走り回りすっかり疲れて眠ってしまっている。
お腹をリズム良く優しく手のひらで叩くヘジンの真剣な顔はランタンの明かりに照らされている。
僕は何も言えなかった。僕には何も出来ないからだ。
「……」
「Aさんのせいじゃありません。ヴァンパイアハンターという職業を皆に知ってもらうために、もっと大きな組織を作りたいんです。その為には資金が必要なので、それで相談しました」
「ヘジン…」
僕が半ば諦めていた事を話すヘジンの眼差しは心強かった。
未だ身体に傷一つ作らず吸血鬼を退治しているヘジンは余程、僕より適任だと思っていた。
しかし、まだ高校生だ。
他の子達と共に勉学に励んで欲しいと思っていたが、彼がこうして決意を固め真っ直ぐ僕をこの眼差しで見つめた時は何を言っても聞かないということも既に共に暮らしてきた中でわかっていた。
「……働く日は家でゆっくり休むのを約束してほしい」
「!……わかりました」
僕が一つだけ約束を申し出るとヘジンは眉を寄せて俯いた。
何もかもをこなそうとするヘジンは無理をすることがある。
これも僕が何度も怪我をしているからだろう。
今日も顔に傷を作ってしまった。
ホソクももう薄々気づいているようだ。
路地裏で出会ってから既に数年が経過したが最近になると僕達が出かける時に何か思い詰めたような顔をしている。
ヘジンはベッドで眠るホソクの隣に入って目を閉じた。
やはり疲れが溜まっているようですぐに寝入ってしまったのを見てランタンを消して僕は寝室から出る。
リビングの窓からは綺麗な星空がよく見えた。
袖を捲ってみると見るとやはり傷が沢山残っていて、痛々しい。
目の前で零れた命も沢山あった。
依頼を受けて罵倒される日もあった。
それでも僕がハンター業を続けるのはそんなでも救える命があるからだ。
警察も頼れない人達は縋る所を見つけてここへやって来る。
助けになりたい、そしてそんな人がもう居なくなる世界にするにはどうすればいいのか。
最近では少し報酬も増えたので僕もヘジンに協力できるようにしなければ。
「Aさん…」
「起こしちゃったかな」
椅子に座って暫くそうしているとホソクが起きてしまったようだ。
目を擦りながら寝癖がついた頭を揺らして僕の傍によたよた歩いてくる。
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作者名:ユウたろー | 作成日時:2023年10月29日 23時