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「クッキー缶とか久しぶりだなぁ」
「ヒョンは食べた事あるんですか?」
家に着いてからホソクが自慢気に机に乗せたクッキー缶を開けて皆で食べたいものを一枚ずつ手に取った。
見れば見るほど綺麗な花が描かれたりしているがなるほど、味も中々のもので美味しい。
ヘジンが蓋の装飾を見ながら思い出に耽っている。
「ああ、ここのやつじゃないけど。何回かオンマ……あー、オモニが買ってきたことあるんだ」
「凄い!ヒョンのオンマは色んな食べ物を知ってたんですね!」
「食いしん坊だったからな」
一枚なんてすぐ食べ終わってしまったホソクは大事そうにその缶を引き出しにしまいにいく。
もっと食べてもいいのに少しずつ食べるつもりなのだろう、相変わらず健気な姿に僕はふふ、と笑みが溢れた。
「素敵なお母さんだね」
「まあ、はい…母さんに限らずでしたけど」
何かを思い出すように悲しげな顔をしたヘジンに眉を下げる。
辛いことを思い出させたのかもしれない、家族を失うのを悲しいことだから。
僕も先立つ母を看取った時の事が今でも時々頭をよぎって辛くなる時がある。
時間は全てを解決することは出来ない。
ヘジンの背中を摩ると少し鼻を啜ってから「ありがとうございます」と呟いた。
ホソクがそんな様子を見ていたのかクッキー缶からいつの間にか一枚取りだしていたようでヘジンに差し出した。
「ヒョン、大丈夫ですか…?もう一枚食べればきっと元気が出てオンマが喜んでくれるはずです」
「ホソク……ありがとな」
クッキーを半分に割って二人で食べ始める。
時間が解決してくれることはない、…けれど傷を癒すことならできるはずだ。
家に入る前に確認したポストの中に入っていた依頼の手紙を開けると二人が身を乗り出して内容を確認し始めた。
「もう依頼が来たんですか?」
「うん、最近相談者が多いね…冬場は特に墓荒らしが増える」
「俺が依頼者と日程調整しますね」
「ごめんよ、お願いするね」
手紙を元の形に折り畳んで封筒に戻してからヘジンに手渡した。
今までは僕が全部依頼者の相談を受けに行っていたけど良い機会かもしれない。
隣で話を聞いていたから要領のいいヘジンならきっと大丈夫だろう。
「ヒョン、気をつけて下さいね」
「わかってるって」
大事そうにクッキーを少しずつ齧っていたホソクは手元に残った小さなかけらをぱくりと口の中に放り込んだ。
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作者名:ユウたろー | 作成日時:2023年10月29日 23時