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死のワードに青ざめたホソクを呼んで、袋の奥に隠れてしまっていた数枚袋に入ったクッキーをチヨンに渡した。
顕微鏡を熱心に覗き込んでいたチヨンは眼鏡を持ち上げて袋を受け取りすぐに封を開ける。
「ここまでしてもらって何も無いのもと思って」
「助かります。丁度お腹が空いていました」
冷めきっていたコーヒーを飲みながらクッキーを齧るチヨンにお礼を言ってから引き戸に手をかける。
ホソクも慌てて「ありがとうございましたっ」とお辞儀をして僕の後ろを追いかけてきた。
外に出るためにホソクにマフラーを巻いていると「あ、そうだ」とチヨンが首から聴診器を下げて注射器片手に歩いてくる。
「ホソクさん、御協力お願いします」
…
「Aさん、お待たせしました」
外で時間を潰していたのから戻ると丁度、僕とほとんど同じような身体検査を一通り終わらせたホソクが診療所から出てくる。
またもこもこに身を包まれたホソクと手を繋いで帰り道を歩く。
「大丈夫だったかい?」
「はい!注射が少し痛かったくらいです。僕のデータがチヨンさんの役に立てばいいんですけど…」
まさかチヨンが吸血鬼の血液に作用する薬剤まで開発していたことには驚いた。
まだそこまで年齢もいっていないはずで腕も確かなのに何故あんな診療所で…と思っていたが人間からしたら訳の分からない研究ばかりするチヨンを追い出すのは当たり前のことなのかもしれない。
人間の中では僕達のことを知っている人は少ないと言っていたので誰か他に吸血鬼の協力者がいるのだろうか。
まだ痛みのあった腕の傷はいつの間にか痛みが引いていて、薬の素晴らしさを感じる。
「Aさん…Aさんも、吸血鬼の血が入ったりしたら眠ってしまうんですか?」
「…うーん、どうだろうね。なるかもしれないし…ならないかも、しれない」
死を間近に感じる場だったからかホソクは不安そうに僕の顔を見上げた。
まだ確定が出来ないし、もしかしたら僕の話は全くの架空の話かもしれないから話を濁す。
「……僕も、早くAさんの隣で戦いたいです」
「ははっホソクが居てくれると心強いだろうなぁ、でもそんなに急ぐことじゃないよ。自分の命を大切にね」
悲しげに目を伏せてしまったまだ大きく感じる僕の帽子を被ったホソクの頭を撫でた。
遠くの方で迎えに来たのであろうヘジンが手を振っている。
僕が繋いだ手を少し引っ張って指を指すとホソクの顔にはまた笑顔が戻ってきた。
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作者名:ユウたろー | 作成日時:2023年10月29日 23時