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少しチリッとした痛みを指をすり合わせて誤魔化しているとチヨンの隣でそれを目を離すことなく見ていたホソクが口を開いた。
「跡って……、っ残っちゃうんでしょうか…」
「かなり深い傷でしたからね、残ると思います。後遺症が残らないのも奇跡みたいなものですから」
ぱち、ぱち、と糸を切りながらチヨンが簡潔に答えるのを「そうですか…」と下唇を噛みながらホソクはぐっと悔しそうな顔をしている。
何を気にする事はないのに、そう声をかけようとしてそれはチヨンによって遮られた。
「Aさん、目を覚まさない吸血鬼について何かご存知ないですか？」
「…目を覚まさない？」
全ての糸を切り終わりピンセットで一つずつ切れた糸を摘んで取っていく。
傷口は綺麗に塞がっていてチヨンは軽く拭いてから保護テープを細かく切って貼った。
目を覚まさない吸血鬼。
僕は吸血鬼ともダンピールとも今まで関わりがほとんど無かったから本当にあるのかはわからないが昔、そのような話を伝記か何かの本で読んだことがある。
この世に出回っている本は大体が作り話だ。
だがごく稀に実際に実伝として書かれたものが紛れ込んでいるというのは聞いたことがある。
その可能性にかけて、僕はその時目にした話をチヨンにすることにした。
「あまり確証は無いけれど……目を覚まさない、となると体内に他の吸血鬼の血液が入り込んだ、という話を見たことがあるくらいかな」
「なるほど、参考になりました。ありがとうございます」
保護テープを貼り終えたチヨンはジップロックに同じテープと説明が書かれた紙を入れてホソクに手渡した。
左手を動かすと少し突っ張っている感じがあったのが大分ましになっていた。
それを不思議に思っているとチヨンが机に置いてあった器具を弄り回してから顕微鏡を覗き込んでいる。
先程の話と何か関係があるものだろうか。
「吸血鬼の血液を活性化させる薬品を先程少しつけましたから、治りが少しは早いと思いますよ」
「そんなものが…僕には治癒能力がないのに」
「“ほとんど”ないだけです。活性化させればどのダンピールも吸血鬼と似たような能力が顕現します。個体によって一度の使用量が決まっていますがね。間違えると体内のバランスが崩れて最悪死にます」
「死…」
知らなかった。今までないと思っていたけれど。
しかし活性化させてもこの程度の治癒だとやはり僕は真祖から離れた場所にいる吸血鬼の血液が流れているんだろう。
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作者名：ユウたろー | 作成日時：2023年10月29日 23時
