怪盗は宝を盗み探偵は謎を解く (ページ18)

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しかし、直ぐにバリスタが珈琲カップを磨く手を止め「ですが、始まりの式だからこそいかなければなりませんよ大和さん」と口を開いた為、沈黙は五分も持たずに破られた。
それを聞いた男、大和が目を丸くさせた後面白そうに喉を鳴らして笑った。「うふふ、君はお母さんみたいなことを言うのだね」
愉快に目を細め、本に葉の栞を挟んで閉じた。
それを見た俺は、すかさず大和に声を投げかけた。

「そういうけどね、お兄ちゃん。始業式には行っておいた方がいいよ」

大和は俺の言葉を聞くとまた目を丸くさせた。目が零れ落ちるのではないかと思うほどに、大きくさせた後静止した。暫時経ち、俺はこの場が居辛く感じ「何か？」と問う。

「ははは！」彼は壊れたようにいきなり笑壺に入った。暫く笑い続け、ようやっと口を開く。
「おじさん。私、女だよ」

其の言葉に、どよめいた空気が満ちた。
俺は暫く大和の言葉が理解できず、脳に吸収させるまでに時間がかかってしまった。ようやく、喉から絞り出した言葉は情けなくも、今すぐにでも枯れ果ててしまいそうなたった一言の疑問だ。「……え？」

「おや、全員が私の容姿に騙されていた口らしい。容姿から男だと判断されるがね、私は立派な女なのだよ。これでもね」

大和は言って、年相応に笑んだ。
いたずらが成功した、幼き子供の様に面白そうに笑った。
有り得ない、否(いや)実際は有り得ているのだが、そんな一つの現実に頭がくらりとした。
何とか衝撃を抜けさせようと熱々の珈琲を口内に投げ込む。それでも、珈琲は衝撃を蹴ってくれることはなくて溜息を吐いて、目頭をつまんだ。
そして、呟く。「思いっきり騙された……」
其の言葉が耳に入った彼女はまた、愉快に笑った。

「大和さんは必ず男性だと間違えられるので、そうお気になさらずに。……ところで、大和さん。行かないのですか？始業式」
「行かないよ。先ほども言っただろう？面倒くさいもの。長ったらしい話を聞いているだけで眠たくなってくる。こっちにいる方が有意義さ」
「そうですか。それは嬉しいですね。有難うございます。ですが、始業式には出なくとも学校には顔を出しては？」
「今日は一日中始業式だ。詰まらないし、明日からね」

大和はそれだけ言って、楽し気に始業式が始まっているであろう塵津学園を窓から眺めた。

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大和は始業式とかそういうものに参加するタイプの子供じゃないので、サボらせて頂く描写を書かせて頂きました。