【鬼滅の刃】鎹烏の訓練士【冨岡義勇】

相談事 ページ41

「胡蝶。訊きたい事がある。」

軟膏が無くなったと言って冨岡が訪ねてきた。柱ともなれば蝶屋敷に世話になるほどの怪我をする事は少ないが、人並みに細かい怪我はするのだろう。不死川のように怪我を放置しないだけましだ。どころかあの男は自分で自分を傷つけたりまでするから。軟膏が無くなったというのは即ち使っているという事でもあるので、その点に於いてしのぶは、不死川よりは冨岡を比較的信頼していた。

しかしいつも代わりを貰えば後は用も無しとばかりに不躾なほどそそくさと帰る冨岡が、訊きたい事だなんて珍しい。口を開けば自覚無しに割と失礼なので、さっさと帰ってもらっても一向に構わないが、訊きたい事というのも別に構わない。

「はい、どうかしましたか。」
「手紙に…、何を書いたらいいのかよくわからない。」
「…はい？」

いつもの穏やかな笑顔を向けて問い返したしのぶに返ってきた応えは、大変に意外なものだった。きっと竈門くんの事だろう、なんて当たりを付けていたしのぶは拍子抜けして、間の抜けた声が出てしまった。

「手紙？の、内容ですか？」
「そうだ。」
「ええと、待ってください冨岡さん。
　そんなの、挨拶を書いて要点を書いて、お元気でって、それでいいんじゃないですか？
　あなた手紙を書いた事が無いんですか？」

まさかそんなわけがと思ったが、冨岡は抜けているところがあるし、浮世離れしている感じもあるし。いやでも、竈門くんの裁判の時のあれはきちんと普通の文章だったではないか。手紙とは少し違うかも知れないが。

「あ…、そうか。」

冨岡のこの質問にはある事情があった。この手紙というのはAに出す寛三郎についての手紙の事だ。いつの間にか互いの近況やら周りの様子なんかも書くようになり、ある程度の回数を重ねて、冨岡はある日筆が止まってしまった。

何を書けばいいんだ？慣れ慣れし過ぎはしないだろうか。あちらももうすぐ今年の放烏らしいから、あまり長長と書いても読む時間があるだろうか。あの娘は律儀に返事を書いてくるからその時間も心配だ。そんな事を考え始めて、気がつくと畳の上には大量の書き損じ。

自分はそう気遣いの出来る方ではないし、ひとりで考えていても埒が明かないし。そうだ、軟膏を貰いに行くついでに胡蝶に相談しよう。胡蝶は気遣いが出来るから。きっと何か良い助言をくれるだろう。そんなわけで、冨岡は珍しくも他人に協力を仰いでいるのだった。

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