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周知の事実ではあるが再度強調しておくと、胡蝶しのぶは大変聡い人間である。冨岡の度重なる粗相についても、性格のどうこうではなく単に気が回らないだけである事には気づいていたし、今の冨岡の悩みの理由にも割とすぐに気づいた。勿論相手が誰なのかまではさしものしのぶにもわからなかったが、その相手が只者ではないからだという事はわかった。
「どなたに出す手紙だからそんなに困ってらっしゃるんですか?」
この男に遠回しな質問をしても無駄である。遠回しな質問に帰ってくるのは言葉足らずの返答、結果は火を見るより明らかで、恐らくしのぶの求めるようなきちんとした応えは返ってこない。聡いしのぶにはそれがよくよくわかっていたので、珍しくも直球の質問をした。
「俺の烏の烏匠だ。」
仮にも女性と文を交わしている事への照れや、水柱たる己がそんな事で年下のしのぶに助言を請うている事への羞恥など一切無い冨岡は、大変端的に応えた。何の躓きも無い冨岡との会話。それに重ねて確か冨岡の代の烏匠は烏丸さんだったはず。しのぶは内心二重に驚いていた。
冨岡は自分では、あの日筆が止まったのは忙しい先方の都合を考えてだと思っている。しかし、そのある日というのは宇髄に絡まれ帰って筆を買い忘れたことに気づきまた買いに出掛けた、正にその日である。本人は宇髄との会話と筆が止まった事について関連性を見出していないが、全て見ていた人間がいたとしたら、その人物が人並みに感情の機微を理解している人間だったなら、この出来事を少なくとも冨岡よりも正しく理解できていただろう。
要するに、多少なりとも意識してしまったのである。相手が年頃の娘である事も、端から見ればそういう風に見られてもおかしくない事も、冨岡は少しもわかっていなかったから。
「冨岡さんの代は烏丸さんですよね。そんなに仲良しなんですか?」
とは言え、しのぶは宇髄のように早とちりでも下世話でもなかったので、というかこの冨岡義勇とあの烏丸Aが二人並んで仲睦まじい様子というのがどうにもこうにも想像できなかったので、そんな風に訊いた。実年齢よりずっと大人なしのぶである。
「…別に仲良しではない。」
「だったら連絡したい事だけ書けばいいのでは?
すみません、あまり状況が掴めないので助言しようにもしにくいです。」
「近況なんかを書いては迷惑だろうか。」
「…迷惑ではないと思いますよ。」
ここまで来て、聡いしのぶにはわかってしまった。
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あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます!とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あさ x他1人 | 作成日時:2020年5月28日 1時