【志麻】小動物とビタースカッチ

29. それがこの人 ページ29

.






『ねぇ…志麻くん？』


「んー？」


いきなり近づいてきたと思えば、正面から志麻くんに抱きしめられる形に。


志麻くんの匂いに包まれて、体温が直に伝わってくる…馴れない感覚。


いつのまにか心臓は、これまでなかったほどに ドクドクと音を立てていた。


『あの、…離して、欲しいです…』


消え入りそうな声で必死に訴えると、回された腕が離れる。…ちょっと寒くなる。


「すまん、嫌やった？」


嫌ではなかった。むしろ安心したし、心地よかったのは確か。


ただ、初めて感じる感覚と感情のせいか、いつもの自分じゃないみたいで______


『嫌、だったよ』


そう言ったとたん、志麻くんがニヒルな笑みを見せた。


「そう？…顔赤いけど」


『それは知らない』


かぁっと顔が熱くなる。志麻くんはこういうところが意地悪でキライ。


自分で髪の毛をわしゃわしゃ荒らして、おもむろに枕に顔を埋めた。



「A〜〜！」


「おいこら坂田！病人いんだからもっとこう…」


「そう言ううらたんも、まぁまぁうるさいですけどね」


部屋のドアがバン！と大きく開く。


中に入ってきたのは…まぁお馴染み、坂田くん、うらたくん、センラくん。


みんな口々に 大丈夫？と聞いてくれる。


大丈夫なのは大丈夫なんだけど…。


『うん、ちょっとうるさいかな』


こんなわちゃわちゃ騒がしいのは ついさっきあったはずなのに、どこか懐かしく感じた。






.

30. それくらいは→←28. 脈アリ？

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す