主様 ページ13
ゲートを潜り、政府本部に着くと、見覚えのある「高橋」と掘られたプレートが掛けられている部屋に入る。
此処に連れてこられた日を思い出す。思い出すだけで反吐が出そうだ。
晴さんの本丸に居たのは一時の休憩のようなものだ。また暴行を受ける日常に戻るのが億劫でならない。
高橋「おい」
思わず肩をすくめながら振り返ると、頬に何かを貼り付けられた。
『何をっ……！』
視界の端に奇妙な文字が書かれた紙が映った。呪符だった。剥がそうにも強力な呪術がかかっているせいで剥がせない。
呪符がズブズブと体内に溶け込んでいったかと思えば、全身を無数の針で刺されたような痛みが走り、言葉を発することすら儘ならなかった。
床に倒れ込むと馬乗りをされ、首筋に強く噛み付かれる。
『い゛っ』
痛みで顔を歪める。
痛い。怖い。気持ち悪い。
身体が恐怖に支配され、思うように動かない。
『やめ、て……！』
突き飛ばそうとするも、力が入らない。
すると高橋は私から退くと、机の上に置かれていた箱に手をかけた。
何を、するの……？
箱から顔を出したのは、黒紫色の液体の入った注射器だった。
あの液体から感じ取れるおぞましい気配。それは間違いなく高橋の呪術であった。
逃げろ。そう脳が警鐘を鳴らしている。無意識のうちに足は出入口の扉へと向かっていた。
高橋「逃げてんじゃねぇよ」
ドアノブに伸ばした腕を捻り上げられ、扉に押し付けられる。
噛み付かれたところに注射を打たれる。
次第に手足が痺れ、痙攣を起こす。
『がっ……あっ……』
頭が真っ白になっていき、どんどん記憶が崩壊していく。晴さんたちとの思い出も、杏果ちゃんとの思い出も。
嫌だ。忘れたくない。私にとって、かけがえのない大切な思い出。
『いっ……やぁ……！』
しかし抵抗も虚しく、意識がぼんやりとし始めた。
あれ……？ 私……
膝から崩れ落ち、視界から色が消えていく。
何を必死に、忘れたくなかったんだっけ？
残ったのは、政府内で様々なことを学んだ時の記憶だけ。
高橋「いいか？ お前の主は俺だ」
先程までもがいていたことなんて、もうどうでもいい。
高橋「もう一度言う。お前の主は俺だ。昔も今もこれからも。“主の命令に従え”」
『はい。主様』
まぁいいや。主様とさえ一緒に居られれば。
ニッコリと微笑むと、主様も微笑み返してくれた。
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作者名：まじゅっちゃん | 作成日時：2021年7月1日 17時
