【wrwrd】ファットブルームの憂鬱【短編集】 (ページ49)

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ファットブルームの憂鬱ページ49

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「あら、このチョコ貴方が作ったんですか？」

白く油分の浮いてしまったチョコレート。其の一欠片を摘み乍、彼ーエーミールはそう私に問うた。私は此の優しく蕩ける様な声色が好きだ。……だった、と言うのが正しいが。

『ええ、でも何だか体に悪そう。食べるのは止めておいて』

頑張って作ったが彼の健康には代えられない。此れは後で私が食べて片付けよう。

「そうですか？美味しそうですけどね……」

そう言うと彼は小さく口を開け、苺の様に瑞々しい唇の隙間に甘美に光る茶色の塊を放り込んだ。

『あ…………美味しく無かったら……ごめんなさい……』

もしも彼の体調が悪くなってしまったら……などと怯えて声の小さくなる私をよそに、彼はぱあっ、と顔を輝かせた。見開いた透明な瞳がキラキラと光を反射する。

「美味しい……！」

彼のあまりの感激様に顔が熱くなる。だが、そんな幸せな瞬間に私は翳りを覚える。

彼の右手には銃。

バキンッ

耳障りで仰々しい金属音が一つしたと思うと左足が軽くなる。

足許には砕けた鉄塊。側には先の醜く潰れた銃弾。

「見た目はまあまあですが味は完璧です。また作って下さいね！」

眉根を下げ嬉しそうにそう言うと、彼は音も無く去った。

『あと三つ…………』

両手と右足に付いた鈍色の枷をじゃらじゃらと揺らし、私はまた菓子作りに取り掛かる。