検索窓
今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:26,852 hit

#13 景色 ページ13

「ずいぶんと楽しそうだったな」
「父親が鍛冶屋だったから、からくりに触れる機会も多くて、それを思い出したらつい。あんなすごいのは見たことがなかったからすごく楽しかったよ」
「そうか、それなら良い。他に気になるところはあるか」
「ううん、特には……」

 もうそろそろ、部屋に戻ろうかと考えていた少女はふと思い立った。

「ねぇ、美馬様。この駿城って窓が無いけど、外の景色を見ることって出来るの?」
「できるが、どうした」
「あたし、今日の最後に外が見たいの。散々わがまま言ってるのはわかってるけど、どうしても今見たくて」

 箱庭のような駅を出て、この克城という駿城に乗った少女は未だに『外』を見たことがなかった。高くそびえ立つ壁を警備の者の目を盗んで登り、一瞬見えた緑に何度も心を躍らせた。明日、外に出ることができるのはわかっているが、小さな窓からでも良いから自分の好きな時に、自分の気がすむまで外を眺めてみたいという願いが少女にはあった。
 少女を見つめ、美馬は頷いた。

「わかった。後ろに下がってしばらく待っていろ」

 短く与えられた指示の通りに、少女が機体の横ではなく後ろに移動したのを見届けた彼は、近くの壁にある蓋の隙間に指をかけ、それを開いた。隠すように置かれたレバーを思い切り引き上げると、がたん、と何かが外れるような音がする。少女はこれから起こることの予測がつかず、不安を和らげるように機体の一部をぎゅっと握りしめて身構えた。
 ゆっくりと、少女と美馬の前の壁が持ち上がって行く。開いた隙間から、駿城を纏う風が勢いよく部屋の中へと吹き込んできた。

「え、何、うわっ!」

 強い風の圧に、雑に切り揃えた少女の髪が弄ばれる。びゅうびゅうと殴りつけるように吹く風に初めは抵抗できず、しばらく腕で顔を庇い強く目を閉じていたが、次第に見慣れたオレンジ色のランプでは無い、違う種の光を瞼の外から感じ取った少女はゆっくりと瞼を持ち上げた。

 そこには、少女が生涯焦がれ続けた景色が広がっていた。
 『駿城』という名前の通り高速で車体が進んでいるせいか、一秒ごとに目に映る景色は移り変わる。しかし、そのひとつひとつの風景は、突然与えられたにも関わらず、少女の目と記憶には確かに強く刻み込まれていった。
 一面に広がる木々の緑や空の青、目に映っては瞬時に消えていく赤や黄色や桃色の花々がそれらを鮮やかに彩っている。
 少女はただ、惚けたようにそれらを見つめていた。

#14 夢→←#12 からくり



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (42 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
44人がお気に入り
設定タグ:甲鉄城のカバネリ , 美馬 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - 小林弘実(app)さん» ありがとうございます。残り話数はそう多くありませんが、これからもお付き合い頂けると幸いです! (2016年8月4日 23時) (レス) id: 333258c32a (このIDを非表示/違反報告)
小林弘実(app)(プロフ) - 詩さん» そうですか。これからも創作頑張ってください! (2016年7月31日 21時) (レス) id: 44473ae3b7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 小林弘実(app)さん» 小林様、この度は当作品の閲覧、そしてコメントありがとうございます!楽しんで頂けているようで嬉しい限りです…!この作品以外の活動となりますと、別のアカウントで一次創作のような短編を詰め込んだものがありますが、二次創作物はこの作品のみとなっております。 (2016年7月31日 18時) (レス) id: 333258c32a (このIDを非表示/違反報告)
小林弘実(app)(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいております( ^ω^ ) 他で小説は書かれたりしないのですか? (2016年7月31日 17時) (レス) id: 44473ae3b7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2016年6月26日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。