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「お疲れ様です、先輩」
「ジョングクくん、お疲れさま」
歓迎会の舞台はこのあたりの会社員で賑わう会社近くの居酒屋。
仕事終わりに一旦家に帰ってシャワーを浴びたあと、鍵と財布と携帯だけを持ってここまで歩いて来た。
家から会社はそこまで遠くない場所にある。
俺は朝が弱いからそっちの方がいい。
「スーツ着てないジョングクくん、なんだか新鮮だね」
「褒めてます？それ」
「うん。かっこいいよ」
まるで世界が止まったよう。
頭の中で繰り返される先輩の言葉。
周りの雑音は消え、耳に入るのはこの煩い自分の心臓の音だけ。
この人はそうやって俺の心をいとも簡単に変えてしまう。
分かってる、分かってる。
この人の言うそれはただ安売りの言葉だってこと。
俺が求めているような意味は含んではいないってこと。
「先輩はそのまま来たんですね」
「うん。部長と話してたら時間がなくなっちゃった」
ほら、みんな待ってる。入ろ入ろ！
先輩に押された背中はその手の形をしっかりと覚えていて。
暖簾をくぐると、奥でこっちに向かって手を振る同じ部署の人たちの中に神田が見えた。
「よ、ジョングク。めちゃくちゃ浮かれてんな」
「神田うるさい、黙ってて」
たまたま先輩の隣に座れたここは、俺だけの特等席。
隣に座る神田を肘でつつけば、痛いなおい、と言葉が返って来た。
「今日の主役は君たち2人なんだから遠慮せず好きなもの頼んでね」
「はい、ありがとうございます」
人数分のお冷やが運ばれて、緊張で喉が渇いた俺はさっそくそのグラスに手をつける。
「そういえば神田くん、」
「はい、」
俺を挟んで会話する二人。
周りがうるさく神田の声が聞き取りづらいのか、俺の方に身体を寄せて先輩は会話を続ける。
どこかで意気投合したらしく盛り上がっていく二人の会話を横目に、空いた両手でコップを持って一人水を飲み続ける。
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作者名：L a r a | 作成日時：2020年9月19日 20時
