好きなものを好きなだけ (ページ2)

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彼は時々左手の薬指に指輪を付けてくる。
その指輪の正体を彼に問いただすと、彼は決まってこう答える。

「古い友人に貰ったんだ。」

もちろん嘘だ。それならばよりにもよって左手の薬指に付けることなんて無いだろう。

彼は嘘が下手だ。
誰が見ても気付くであろう不自然が過ぎるほどの嘘。

私は馬鹿な女じゃないが愚かな女だった。今日もまた、好きな男の前で馬鹿で単純な女を演じる。

煌びやかに光る指輪に、彼が愛した過去を見てもそれでも気付かないフリをする。

大学を卒業した私は彼の元から逃げるように東京へ働きに出た。時はその一週間前に遡る。

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今日の夜空は真っ黒な背景を後ろにキラキラと輝く星が妬ましい程綺麗だった。

それは運が良いのか悪いのか、弧を描く月がより映える美しい星空だった。

私にはまるで別れを祝福しているかのように見えた。
それくらい彼に会う前の私は余裕が無く、恐怖と不安に磔にされているような気分だった。

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本当は彼には告げずに黙って行く予定だった。

が、区切りをつける為に会いに行った際にその事がバレてしまい、最後にお茶でもと誘われ近くのレストランへ足を踏み入れたのだった。

お茶でもと言ったくせにカフェではなく何故こんな高そうなレストランに入ったのかと変わらない彼のそそっかしくておっちょこちょいな部分に、会う前から決めていた思いも全て上書きされてしまうくらい、愛おしさを感じた。

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