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*Tell me goodbye ページ8

或る春。桜の舞ったあの場所で、確かに私達は別れを告げた。
卒業証書の裏には、彼と私の一瞬の思い出が記録されている。
それでもいつまでも忘れることが出来ないのは、きっと季節を巡る度に桜が踊るからだろう。


「おれ、こうして誰かに曲を書いてやったのは初めてだ!」


嬉しそうに、けれど照れくさそうに笑ったあの顔は、二年の月日が流れた今でも忘れない。
心のどこかで引っかかっている。中身の知らない小さな違和感と一緒に。
その違和感は、いつか晴らされる時が来るのだろうか。

あの春と同じような桜が散っている街を歩く。
賑わう商店街。最近は随分な荒れようだというが、それは日が沈んでからの話なのだろうか。
通りかかった総合病院の白が、桜の桃に溶け込んでいた。

どこかで、ピアノの音が聴こえる。聴き心地の良い、柔らかい曲調の曲。
それは、優しいメロディのはずなのにどこか切なさを孕んでいる。


「誰が駒鳥殺したの?」


誰がメロディをそのピアノに起こしているのだろうか。
知る由もないけれど、重ねてうっすら口ずさむ。
春の陽気に誘われてか、図ったかのように雀が顔を出す。駒鳥を殺したと言ったのは雀だったか。

途切れることなく舞い散る桜の中で、ずっと仕舞われていたあの卒業証書は確かにメロディを刻んだ。
忘れもしない思い出だと言いつつも、今の今まで、私のために作られたその旋律を耳にしてこなかった。今になって興味が湧いて、帰ったら弾いてみようなんて考える。

せわしなく舞っては落ちる花弁に別れを告げて、まだ知らぬ彼の調べに触れてみようか。

*Afterword→←*



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雫月(プロフ) - (名前)さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます〜!;;お楽しみ頂けたようなら何よりでございます^^ (2018年8月24日 16時) (レス) id: 85139be9d2 (このIDを非表示/違反報告)
(名前) - 読んでいてとても心地がいい小説でした。 (2018年8月23日 12時) (レス) id: fe02a3a839 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雫月 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年3月31日 16時

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