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見慣れた下駄箱に収まった、見慣れた革靴を取り出す。
ぱたん、と大きな足音で着地した革靴に足を通して、上履きを鞄に仕舞う。
「―――♪」
ざわ、と先ほどとは違う風が吹いた気がして、思わず目線を校舎の外にやる。
たなびいては視界を遮るミディアムヘアを抑えて目を凝らせば、きらりと光る何かが飛んできているのが分かった。
「あ〜っ待って待って、おれの大傑作が〜っ!!」
ふわり。
どこかで誰かの嘆きともつかぬ声が聞こえる中で、足元に墜落した何か。何が書かれているか明白ではないが、どうやら紙切れのようだ。拾い上げようと身を屈めれば、それはするりと指先を掠めて再び風に浮き上がった。
耳をすませばようやく微かに聴こえるような、不思議で心地よいメロディを見せびらかすようにそれは私を誘っていく。ウサギ穴に落ちていくアリスのように、吸い込まれるように追いかけたのは言うまでもない、のだが。
「あれっ」
「え?」
途端に視界を塗りつぶしたのは、それは眩い橙色であった。
次に捉えたのは翡翠の瞳。そして胸元でたゆたう胸花の桃色。
つまり、同学年の生徒、いや、卒業生である。
同級生ともなれば、彼のことを全く知らないわけでは無い。月永レオ。名前と顔くらいは知っている。
ただ単にとりわけ仲良くなるようなきっかけもなかった、一言で片づけてしまうなら顔見知りという言葉が相応しいような、そんな距離感だった。それだけだ。
彼自身もクラスや学年で浮いているわけではなかったと思う。
強いて言うなら音楽に多才で、ピアノの伴奏や時には指揮もこなして見せたり、自分で作曲したメロディを五線譜に書き留めたりはしていたという。確かに音楽の才は抜きんでていたと接点が無いながらも感じる節はあったが、他に於いてはごく普通の男子生徒というイメージだった。
「おまえも卒業生?なんでまだこんなトコにいるんだ?」
けれどこうして蓋を開けると、変人のにおいがするのは気のせいだろうか。
取り敢えず特大ブーメランですよ、月永くん。
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雫月(プロフ) - (名前)さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます〜!;;お楽しみ頂けたようなら何よりでございます^^ (2018年8月24日 16時) (レス) id: 85139be9d2 (このIDを非表示/違反報告)
(名前) - 読んでいてとても心地がいい小説でした。 (2018年8月23日 12時) (レス) id: fe02a3a839 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雫月 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年3月31日 16時