落ちた鬼灯。【OP】 (ページ24)

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Aは、病室に入るとその奥のベッドへ寝かされている人物の方へと目をやった。蛍光灯のライトに照らされ、カーテンの隙間からは青白い月がこちらを覗き込んでいるようで。カクを部屋の外へと向かわせたAは、近くの椅子へと座った。

「……。」

掛けられた布団から出た手は、骨に皮が張り付いたように細く、それをそっと握る。たくさんの管に繋がれて、ようやく命の糸を繋いでいる状態で。いつ切れたって、おかしくない。

「…先生。」

医者の話によると、暴行に対する抵抗の跡が多く見られたらしい。腹や胸には銃で撃たれたように無数の穴が空き、腕の骨は折れていた。頭からも血を流して、生きながらえているのが奇跡なほどに。

「先生が書いた本、とても面白かったです。あんな人物描写、どの本を見てもないほどに…。」

＿＿あなたに伝えたいことが沢山ある。その細くて青白い手を、Aは撫でた。

「…あなたに会わないうちに、私は随分と生きる楽しさを覚えました。1年前、唐突に私に押付けてきた仕事も…今や、生活の一部になって、…楽しい限りですよ、本当に。」

声が震える。

「…また先生の話が聞きたいです。あなたの面白おかしい話を、私は聞くのが好きだったから。だから…」

＿＿起きてくださいよ。悲痛な声が、病室に響いた。

カクは壁にもたれながら、Aが戻るのを待っていた。彼女の悲痛な叫びや、啜り泣く声は嫌に鮮明に聞こえて。はあ、とため息をついた。

＿＿時折、嫌になって全てを投げ出したくなる時がある。何もかもを忘れて、誰もいない空間で、ひとりぼっちでいたい。

「………。」

今のこの立場だと、ルッチにも自分自身にも、注目が向く事が多々ある。その度に追っかけのようにも近い事もされ、1度はあまつさえ殺しも見られる、なんて抜かすことがあった。

＿＿誰にも言わない！私はあなたのことが好きだから！私は何も見ていないわ！鮮明に覚えている。あの時のブランデーのような甘い香りと、血飛沫。この組織は、自分自身は、たとえ女だろうと子供だろうと殺さねばならない。

＿＿けれど彼女と関わるようになってから、心にも気にしていなかったその後ろめたいような感情が引き出されるように湧き出るのを感じる。彼女の笑顔を見る度、話す度、そばにいる度。

その真っ黒な腹に溜まった感情が、ぼこぼこと沸騰しているように、音を立てて。

「(＿＿苦しいな。)」

帽子の下のその顔を、片方の手で隠すように覆った。