落ちた鬼灯。【OP】 (ページ21)

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「………。」

空白が、続いた。酷く長い、沈黙。

「…ありがとうございます。」

Aが、そう呟いた。誰もが目を見開いた。彼女のその行動に、言葉に。は？と男が言葉を漏らす。酒が回っているのか顔を紅潮させ、酷くしかめて。

「…私、この店のお酒、好きなんです。体が弱くて、あまり飲むことは出来ないけれど…。1度、浴びるように飲んでみたかった。」

嬉しそうな声色で、Aはそう呟いた。けれど、それと同時に。
＿＿ぶわりと、カクの腕に粟がたった。どうしようもない、なんなのかも分からない寒気が、カクを襲った。

＿＿彼女の気迫。それは彼女が怒っているから感じられるのか、それとも、別か。

「…今、望みが叶いました。」

「ひぃっ！」

男が椅子から滑り落ちる。だんっと尻もちを着いたのと同時に、失礼しますとAは頭を下げ、カウンターの奥へと歩いていく。張り詰めたような表情が、嫌に記憶に残った。

「……。」

「…テ、メェ…！」

固まったパウリーも体を動かし、男の胸ぐらを掴むが＿＿カクが、それを止めた。

「っなんで止めんだよカク！！」

「殴りたいのはわしだって一緒じゃ。」

＿＿じゃがそれは、Aの心配より先にすることか。カランと、グラスの氷が溶ける。同感だと、ルッチは内心そう呟いた。出禁にしておけとカクは立ち上がりブルーノにそう伝えてから、男の襟を掴んだ。

＿＿Aの殴らなかった優しさに免じて許してやろう。次は無いぞ。

そう呟き、カクは男を入口から外へと放り投げた。

「＿＿あ、ごめんなさい。」

カウンターの奥から現れたA。上着を着て、手には雑巾を。カクが心配の色を見せるが、それを気にする様子もなくすれ違い、床の酒を拭き取る。

「早く掃除しなきゃ…。跡になったら大変だし。」

＿＿ぽん。
パウリーが、Aの頭に手を置いた。えっと驚いてAは目を見開く。彼の顔を見上げると、酷く歪んでいた。

「……俺らがやっとくからよ、お前は早く着替えてこい。」

「………、はい。」

ありがとうございますと頭を下げ、再度奥へと入っていったAをパウリーとカクは見ていた。
＿＿実際に、見た訳でもないけれど。海賊船で下働きをする彼女が容易に想像出来たのが、正直、怖かった。